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RUN ~The 1st contact~

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「その時は、警察も一緒だわ。今度あなたを見たら、きっと逮捕する。私、今回のことで正義が何かもわからなくなってしまったけど、自分を信じて進むことにするわ。やっぱり人殺しはよくないもの」
 今度はトムが笑う。
「じゃあ、もう一生会えないみたいだね。僕も久々に楽しんだよ。じゃあね」
 トムはそう言うと、ランへと近づいていく。
「ラン、いろいろありがとう。これで君への貸しはチャラだね?」
「ああ。助かったよ」
「僕もだ。でもいつか、君の首をもらいたいな」
「望むところだ」
「アハハ。じゃあ、このクソガキを送り届けたら任務終了だ。またいつか、組むこともあるかな……その時はよろしく。じゃあね」
 トムはそう言うと、眠ったままの龍王を連れ、去っていった。
「俺たちも帰るか」
 ランはそう言うと、ヘリコプターへと乗り込む。
「え、もう?」
「うろうろしてると捕まるぞ。おまえ、パスポートも持ってないだろ」
「あっ!」
 圭子は慌てて、ヘリコプターへと飛び乗る。
「ご苦労さん……あとは帰るだけだ。おまえに手伝わせたのは悪いと思うけど、無事でよかった」
「……うん」
 ランの言葉に圭子は頷くと、そのままヘリコプターは日本へと飛び立っていった。

 ヘリコプターは、関西のとあるヘリポートに停まった。ランは乗り捨てるように、その場から歩いていく。
「ヘリはどうするの?」
「トムがチャーターしたヘリだ。トムの仲間が後で片付ける」
 ランはそう言うと、近くの駐車場で行きに乗って来た車を見つけた。それは手筈通りのことで、トムの計らいで運ばれたものだ。ランは軽く車の周りを調べた後、中へと乗り込んだ。圭子はもはや何も言わず、助手席へと乗り込む。
 車は東京方面へと猛スピードで戻っていった。互いに無言で、圭子はあまりにたくさん起きた出来事にうとうとしながらも、流れる景色を見つめていた。

 数時間後、車が止まった先は、圭子のマンション前であった。圭子はハッとして、ランを見つめる。すでに朝が明けており、眩しいくらいの日光が、ランから尋常ではない美しさを引き出す。
「……あまり気にするなよ。俺はおまえを加担させたくはなかった」
 何も言えない圭子に、ランがそう言った。圭子は静かに首を振る。
「ううん。いろいろなことがありすぎて、夢か現実化の区別もついてないわ。でも……ますますあなたのことが知りたくなってしまった……」
 圭子の言葉に、ランは軽く笑う。
「殺し屋にでもなるつもりか? 俺は仕事が残ってる。これから先は、おまえに手伝ってもらうような仕事じゃない。おまえの兄貴の依頼は必ず遂行する。だからおまえは、もう俺に関わろうとするな。これが最後だ、降りろ」
「……」
 圭子は押し黙ると、そのまま車を降りた。ランは何の合図もしないまま、その場を素早く去っていった。
「ラン……」
 いつの間に、圭子の心はランで埋め尽くされているだのった。

 数日後。ランの動きはまったくないが、世間だけが消えた客船について騒いでいる。そんな中で、日本一怯えている人間が、とある高級マンションにいた。
「次は私だ……殺される!」
 マンションの寝室で、頭から布団を被って震えているのは、日本の前総理大臣、間宮卓だ。間宮はカリスマ性を武器に、国民を誘導し、愛される総理大臣で通っていた。しかしその反面、暴力団やマフィアとのつながりを重視し、正義に燃える圭子の兄を殺した人物の一人でもある。
 間宮が通じていた暴力団とマフィアが一気に消えたというニュースに、間宮は何者かが自分を狙っていることに気付いていた。政界引退後、多額の年金によって生活が安泰している間宮だが、家族もおらず、一人きりのマンションから、もはや出ようとはしない。
「どうしてあいつらが一気に消えた……次はきっと私だ……」
「ほう、よくわかったな。まあ当然か。おまえはそれだけ悪どいことをしてきた」
 突如として、家中に鍵がかかっているはずの寝室に、見知らぬ男が立っていた。ランである。
「ぎゃあ!」
 間宮はそう叫ぶと、壁際で身を震わせている。
「いいマンションだな。いくら叫んでも届かない」
 ランはそう言うと、間宮の首筋にナイフを当てる。間宮は恐怖に震えながらも、静かに口を開く。
「だ、誰だ……」
「おまえぐらいの大物政治家なら、名前くらいは知っているかな。コードネーム・ランの名を」
 名前を聞いて、間宮の目が見開く。ランは不敵に微笑んだまま、微動だにせず間宮を見つめる。
「勝ち目はないとわかったか? 依頼は遂行するタチだ。見逃すつもりはない」
「か、か、金なら……払う! あ、あなたの依頼人よりも」
「悪いが、俺も金は有り余ってる。おまえに払えるものは、その薄汚い魂くらいだよ」
 ランはナイフをしまうと、一旦、すぐそばのベッドに座った。そして胸元から、手紙のようなものを出す。
「これが何だかわかるか?」
 ランの問いかけに、間宮は首を振るばかりだ。あまりの恐怖に、涙や鼻水が垂れている。
「おまえの遺書だ。これにはおまえの悪事が事細かに書かれている。おまえをヒーローのまま死なせはしない。これを読めば、おまえは極悪人で名を馳せることになる。死んで美談になる確率など微塵もない」
「そんな! で、でも、私が書いたものではない」
「筆跡はおまえのものだ。おまえが書いた文書から抜き取って書いた。それに近くに死んでいるおまえを見れば、疑う余地はないはずだ」
 ランが見せた紙の文字は、どこから見ても間宮の筆跡そのものだった。間宮は無念にうなだれ、諦めたようにその場に座りこんだ。
「これを数十粒飲め。睡眠薬だ。運がよければ、楽に死ねる」
 ランはそう言うと、睡眠薬入りの瓶を差し出す。間宮はもはや拒否権を持っていない。時間稼ぎという淡い期待と、楽に死ねるという文句に、間宮は大量の睡眠薬を飲んだ。
 それを見て、ランは静かに口を開く。
「……筋書きはこうだ。おまえが今、俺に殺されそうになって震えていたように、おまえの仲間であった暴力団の伝達係、そして暴力団そのもの、その上のマフィアまでが消され、おまえは誰かに狙われているという錯覚を覚え、半狂乱になる。そして俺に殺される前に自殺しようってわけだ。今までの悪事を書いた、遺書を残してな」
 ランはそう言うと、おもむろに包丁を取り出した。
「これは、この家にあったものだ。一番切れそうなものを選んでやったよ。だがその程度の睡眠薬じゃ、痛みに耐えきれず、気を失えないはずだ。苦しみながら死ね」
 声のトーンも変えず、次の瞬間には、ランはその包丁を間宮の腹へと刺していた。
 声にならない声が間宮の口から漏れ、それと同時に床を這いずる。
「一番苦しむ場所に刺したが、あんまり暴れるなよ」
 ランはそう言うと、もう一度ベッドに座る。そして、近くに転がった睡眠薬の瓶をキャビネットの上に置き、間宮を観察する。その目はただ間宮を見据えたまま、冷たく光っていた。
 やがて、数十分にもおよぶ間宮の最期を見届けると、ランは静かに間宮の部屋を後にした。