小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

アンバランス

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 両親は涙を流さんばかりにして喜んだが、イヴォは躊躇った。見ず知らずの中年女性の夫になるなど考えられないと憤りもした。それでも、最終的には宮入りを決意した。ふたつ年下の弟のためだった。
 兄とちがい、わたしは生まれつき病弱で、心臓に疾患も持っていた。手術を受けなければ死んでしまうと医者に宣告されていたときだった。マーガレットの数多い夫のひとりとなることでイヴォと両親が受け取った金で、わたしはアメリカに渡り、外科手術を受け、命を長らえることとなった。
 イヴォが家を去る前の晩、彼はわたしの部屋を訪ねた。泣きつづけるわたしの手を彼が握りしめ、そしてわたしたちは両親を起こさぬよう声をころして抱きあった。わたしにとって、たった一度のセックスであった。あの夜、わたしはイヴォに命を授けられたのだった。
「彼はいつもあなたのことばかり考えていました」
 わたしの背後で棺を見下ろしながら、女王がいった。
「彼は幸せでしたか」
 ある意味では残酷で、しかも無意味な質問だった。それでも、尋ねずにはいられなかった。女王は静かに首を振った。
「わかりません。わたしを恨んでいたかも……」
 いつの間にか棺をはこんできた女たちが消え、案内係の少女が扉の前に立っていた。マーガレットは慈しむような眼差しで彼女を見つめた。
「彼の孫です」
 わたしは頭を持ち上げて少女を見た。門の前ではじめて彼女を見たとき感じた奇妙な親愛の正体がようやくわかった。なにものにも引き換えられない血の繋がり。ベールを取った彼女の眉は、イヴォにそっくりだった。
 少女の顔をとっくりと見つめ、それからまた女王に目をもどした。彼女の閉じた瞼の縁から、透明な雫が溢れ出していた。
 わたしだけでなく、彼女にとっても、イヴォはたったひとり愛した相手だったのにちがいない。
 黒いベールを手にした少女は、つよい意思を感じさせる眼差しで、老いたわたしたちをいつまでも見つめつづけていた。


おわり。
作品名:アンバランス 作家名:新尾林月