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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~現世編~

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エピローグ



 数年後。春江が壮絶な最後を遂げたあの浜辺は、静かな時間が流れていた。
 春江のジュネリング強制失効……あの出来事を目撃したのは、異形なる者達や天使だけではなかった。
 数名の霊験あらたかな修行僧も含まれていたのである。その僧達もまた、春江を菩薩と崇めた。春江に対する信仰は、異形なる者達や天使たちだけに留まらなかった。生きている人間にも広がっていったのである。
 この修行僧達は、春江に対する信仰を形にするために、仏像を彫った。それは天を翔る龍にまたがる菩薩の像である。ベリーと行動を共にした春江の様子を模したものだった。
 春江がバイオリンを演奏していた浜辺に社が建てられ、その中に安置された。
 いつしか、その場所は、死後何らかの事情で成仏できなくなった霊たちや心に闇をかかえ、自殺に走ろうとする人間を救うために利用された。
「春江菩薩寺」
 そう呼ばれるこの寺に、今日もあの天使が訪れた。
 ジョン・ベリン。
 そう、春江のジュネリングを破壊し、地獄に堕とした保安官である。
 ジョンは、本堂を背にして海を眺めていた。海には天界と現世をつなぐヤコブの梯子がそびえ立っている。
 ジョンは、ふとヤコブの梯子を一瞥すると、感慨深げに自らの首にかけたネックレスを手に取った。
 以前までは十字架をかたどっていたネックレス型のジュネリング。今は、春江菩薩寺に安置されている仏像と同じく、龍にまたがる菩薩の形をしていた。
 静かに潮騒が聞こえる浜辺で、ジョンはふと呟いた。
「春江さん。いつまでも……待っていますよ」
 ジョンは今日も春江を待ち続けている。



天上万華鏡〜現世編〜

    完


地獄編に続く
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