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仁科 カンヂ
仁科 カンヂ
novelistID. 12248
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天上万華鏡 ~現世編~

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 暗闇の中で鈍く光る大地。春江の目には幻想的に映った。これまでの緊張した場面から一転して、少女のように周りを駆けた。すると、大きな壁にぶつかった。尻餅をついて倒れる春江。それに気付いて、駆け寄るベリー。するとベリーの顔から笑顔が消えた。
 ぶつかった壁は、都道府県境封鎖に使われた、α5結界だった。
「そんな馬鹿な!」
 体を震わせながら叫ぶベリーの背後から、あの声が聞こえてきた。
「天使転送装置を使うことぐらい想定できなくては、結界官と言えんねぇ。そりゃぁ月に結界はるぐらいするわな。むしろ誘いこんだというのが正しいか? 残念だねぇ。もう逃げきれんよ」
 うなだれるベリーに追い打ちをかける聖徳太子。
「黙れ!」
 ベリーは聖徳太子にレーザービームみたいな光を浴びせようとするが、瞬時に聖徳太子の体が消え、ベリーのすぐ横に姿を現した。
「結界官にそんなもん……効かん」
 と言い残すと身を翻しその場から去ろうとした。
「総務課長のお出ましだ。それで私はお役ご免。さいなら」
 完全に姿を消した。聖徳太子と入れ替わるように、天使転送装置に乗った天使が降りてきた。その天使は、椅子に座っており、その前には木製の大きな机があった。まるで執務室がまるごと降りてきたかのような姿だった。
「私は転生管理局総務課長、アルジェリア・ゴメスである。自殺対策課参事、ベリーコロンに辞令を発令する」
 その言葉が発せられた瞬間から、ベリーの体は動かなくなった。辞令発令中は体を動かすことができないらしい。
「え? ベリー様?」
「春江さん……大丈夫です」
 ベリーは精一杯の笑顔で答えた。
「地獄に? 地獄に行くんじゃないですよ……ね?」
 ベリーは何も言わず笑顔で答えた。
「汝を天使更迭に処す」
 すると、ベリーの天使の羽根が一瞬にして消え、天使の制服から私服っぽい服に変わった。
「ベリー様? ……ベリー様?」
「春江さん……ここでお別れです」
「そんなこと言わないでくださいよ。ベリー様はいつだって諦めなかったじゃないですか」
「いいえ、諦めませんよ」
「でも地獄に……」
「はい。確かに地獄に行くでしょう。でも、それで終わりじゃないんです。地獄に行っても、絶対はい上がってきます。どんな仕打ちを受けても、私の魂は潰えない。だから大丈夫です」
 天使更迭……正式な処分が下っていないとしても、おそらく地獄行きだろう。誰の目にも明らかだった。ベリーもそう感じていた。ベリーは地獄行きを受け入れたのである。
「汝は神のご加護があれば、地獄行きはないだろうと言っていたそうだが、そんなに甘いものではないぞ」
 総務課長は、ベリーの行動を理解できなかった。だからこそ、このように苦言を呈したのである。しかしその後発せられるベリーの言葉は、より理解できないものだった。
「否。神は私を試されている。自らの正義に対して、より真摯に追究できるのか試されている。神は時として無慈悲だと錯覚するほどの試練を与えられる。私は神の試練を受けるに足ると認められたのだ。君には達することのない境地だよ」
「だからといって、地獄に行くことないじゃないですか!」
 春江は泣き叫んだ。
「いいんです。正しいと思うことを、守らなくてはならないものを捨ててまで生きて、何の意味があるんですか? 私には貫きたい正義があった。守らなくてはならないものがあった。それは地獄行きを引き替えにしてもよいと思える程、価値のあることだった。ただそれだけのことなんです」
 理屈は分かる。でも春江には受け入れられないことだった。
「行かないでください! 行かないでください!」
 泣け叫びながらベリーにしがみつく春江だったが、ベリーはそれを解き、突き飛ばした。
「ベリー様!」
「ベリー・コロン、これより転生管理局局長、ラファエル様の執務室に転送される。そこで申し開きをした後、正式な処分を受けよ」
「春江さん。あなたは地獄に来てはならない。あなたはみんなの光なんです」
「私だけ残るわけにはいきません!」
「仁木君が待っているではないか! 仁木君と寄り添い生きていくのが君の幸せではないのか!」
 そう言い残すと、最後の力を振り絞って、天使転送装置を作動させた。ベリーは動けないため逃げることができないが、春江はまだ動ける。しかし春江は天使転送装置に乗ることを拒否した。
「私に構うな! 君には仁木君がいるだろ? 仁木君を悲しませるな!」
 仁木のことを引き合いに出されると何も言えなかった。後ろ髪を引かれる思いをしながらも、春江は天使転送装置に乗った。次第に消えていく春江をベリーはホッとした表情で眺めていた。
――――仁木君……君の出番まで回ってきてしまった。すまない……
 そうつぶやくと
――――ズコン
 と大きな音を立てて、ベリーは墜ちていった。