天上万華鏡 ~現世編~
「どうでしょうか。頑張っていただけませんか? みんなのために立っていただけませんか?」
「仁木さん……一つ聞いていいですか?」
「はい……なんですか?」
「私穢れていますよね?」
「……はい」
「それでも天使様になれるんですか?」
「勿論です!」
この時、霧が晴れたように春江の心は澄み渡った。春江が初めて自分のために立とうとした瞬間であった。
「仁木さん……私……天使様になります」
春江は天使になるという大きな夢をもった。これまで人の影に隠れ、目立つことを嫌った春江だったが、初めて自分から日の当たる場所に立とうとている。
――――人を救う…………
これは、春江にとって大きな意味のあることだった。思う存分人を救うには、天使になるのが一番いい。現世で腐って生きているよりも随分価値のあることだと気付いたのである。
しかし、魂に傷を負ってしまう程の苦行である千回詣をくぐり抜けなければならない……春江は激痛を想起しつつも何故か自分はできるだろうという自信があった。
夢の力か……それは春江にも分からないことだった。しかし確実に春江を動かす原動力になっている。
程なくして二人は再び神社の前に立った。これからまたあの試練が始まるのである。
作品名:天上万華鏡 ~現世編~ 作家名:仁科 カンヂ