天上万華鏡 ~現世編~
プロローグ
転生管理法第二十四条第一項
現世における自殺はいかなる理由があろうとも罪である。
爵位、称号、位階にかかわらず適用されるものとする。
刑法三百二十四条第三項
自殺者に対する罰は左記の二点とする。
一 成仏する権利の剥奪。
二 保護観察官による導きを受ける権利の剥奪。
刑法三百二十四条第四項
例外として結界局管轄の寺社へ千回詣(せんかいもうで)を行うことによって成仏する権利が復活するものとする。
刑法三百二十四条第五項
自殺した罪人が現世において別の罪を犯した場合、自殺の罪と合算されるものとする。
自殺は地獄三層相当とする
右記の法が天上にあることを多くの者に知られていない。知られていないが故、人は簡単に自殺する。
苦悩から逃げるため。退屈な人生から抜き出すため。理由はそれぞれあろうが、いずれにしても自殺者としての汚名を被る覚悟をもつ者はほとんどいない。悪夢からの解放を目指して自殺した者達に待ち受けているのは、生前の苦痛を遙かに上回る現世という監獄だった。
現世も地獄。天上も地獄。精神は荒み、人間の尊厳は失われ、人間であったことすら忘れてしまう。それほどの絶望を目の当たりにする。
天使は壊れた人間を哀れみの目で見つめ、
「人間はなんと愚かで脆いんだ」
と嘲笑混じりに呟いた。
それ故に、人間の命乞いに耳を傾けず、法の定める通り、淡々と職務を全うする。
そんな過酷な世界に飛び込もうとしている人間がここにもひとりいた。この物語は、この者を取り巻く世界を描くものである。
作品名:天上万華鏡 ~現世編~ 作家名:仁科 カンヂ