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ふたりの言葉が届く距離

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 目覚まし時計が鳴り響く前に俺は布団から起き上がる。ほとんど眠ることは出来なかったが、頭は冴えている。
 これから数時間後には理奈に会えるんだ。

 押し入れに布団を仕舞ってから窓を開け、抜けるような青空を見上げた後に軽い朝食を摂る。
 新幹線の発車時間は11時頃だが、そこに辿り着くまでに3つの電車を乗り継いでいかなければならないので、待ち時間や遅延を考慮して早めに出かけよう。
 これが最後と決めて仕事のことを考える。大丈夫、今週やるべきことは片付けたし、来週の準備も問題ない。

 出掛ける寸前になって、着ていく服を考えていなかったことに気づく。東京に行くんだから、少しはお洒落な服でも買っておいた方が良かったかも知れない。
 せめて理奈が選んでくれた明るめの服を着ていこう。都会で生活する彼女の目から見たら多少野暮ったいかも知れないが仕方ない。どうせ彼女の部屋に行ったら着ている時間の方が短いのだ。


 電車の乗り継ぎはスムーズに進み、かなりの時間的余裕を持って駅の待合所に着いた。
 睡眠不足なので席に座って目を閉じる。寝過ごしたなんていう馬鹿なオチにならないよう、念の為に携帯のアラームをセットする。
 昨日の夜に大学時代の思い出をいろいろと振り返ってしまったのは、理奈に久し振りに会えるという興奮も影響していたと思うが、数日前に白井が突然訪ねて来たことも原因となっていたのだろう。
 離婚の件は自分から理奈に話すと言っていたので、今日会っても話すつもりはない。だが、白井の話題も当然出てくるだろうから、嘘を言わずに上手く受け答えが出来る準備をしておく。

 少しウトウトしてきた時に携帯から音が鳴り響く。
 これはアラームの音ではない、誰かからの呼び出しだ。
 理奈かと思い見てみると、そこには俺の担当クラスの生徒の名前があった。
「……もしもし?」
『ああ、すみませんねえ。失礼ですが、松木圭吾くんの担任の先生ですか?』
「はい、そうですが……」
 電話は警官からだった。松木が万引きをしたらしい。家に閉じ籠もっていないで外に出るように指導した結果がコレだ。
『自宅の電話に連絡しても留守なんで困っているんですよ。彼の携帯には他に先生の携帯番号しか登録されていなかったものですから……』
 何も話さない松木の代わりにいくつかの質問に答え、彼の様子を聞いて、最後に告げる。
「そちらの場所を教えて下さい」