ふたりの言葉が届く距離
明かりの見えないアパートの窓を見て、少し安堵する。
早めに帰宅した俺は軽くシャワーを浴びてから冷蔵庫の中にあった弁当を温め、食事をしながら理奈に簡単なメールを送り、食べ終わるとさっそく仕事に取り掛かった。
集中する為にテレビもつけず、静まり返った部屋の中で予定をこなしていく。
週末に作業が出来ない分、今のうちに処理できるものはしておかなければ。
明日も明後日も間違いなく予定外の仕事が増えていくのだから。
土曜になったら仕事のことは全て忘れたい。
理奈の顔を見て、声を聞いて、匂いを嗅いで。全てを感じたい。
スリムだけど柔らかなその身体を抱き締めて、甘い吐息を漏らす唇を強引に奪いたい。
俺の動きに合わせて理奈が切なげな喘ぎ声を上げる時、俺はこの世の全てを支配しているような錯覚に陥る。いや、実際にその時、彼女は俺の世界そのものなのだろう。
仕事の手が止まってしまったので、一度席を立って台所に向かい、コーヒーを用意する。
妄想の時間は終わりだ。
もうすぐ現実の理奈に会える。
作品名:ふたりの言葉が届く距離 作家名:大橋零人