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ふたりの言葉が届く距離

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 顧問をしている部活動の終わりを見届け、職員室で少し残務をしてから家路に就く。いつもと同じように家の近くのコンビニで弁当を買い、夜の帳が下りた空を見上げる。
 
 日曜の電話を最後に理奈とは電話もメールも交わしていない。彼女が上京して以来、こんなことは初めてだった。
 俺の想像以上に理奈は東京で孤独に苦しんでいるのかも知れない。だから、俺が白井と一緒にいたことがどうしようもなく不愉快だったのだろうか。
 あの時の彼女の声が壊れたレコードのように何度も何度も繰り返し聞こえてくる。

 昨日、白井が理奈に会っている筈だ。

「来週、出張で東京に行くから、その時に理奈の様子を見てくるよ」

 彼女はそう言っていた。

 しかし、まだ、なんの連絡も無い。
 もしかしたら日帰りではなかったのかも知れない。だいたい、いつ帰ったとしても彼女が俺にすぐ報告する義務なんてないんだ。白井は仕事で東京に行って、そのついでに理奈と会っていただけなのだから。
 そう理解していても、俺は勤務中にも何度か携帯の着信を確認してしまっていた。

 家に帰って夕飯を食べたら、白井にメールを打ってみようか。
 その時間なら、彼女も仕事中ではないだろう。

 アパートの窓が暗いことを確認しながら歩いていると、その階段の前に人影が見えた。

「……白井?」

「ああ、阿部くん。こんばんは」

 大きめのバッグを傍らに置いたスーツ姿の白井麻由美が俺に微笑んだ。