エイリアンの恋
やや撫で肩の竜さんを見つめる。まったく、夜遊びとは縁遠い印象。無理をすることはなかったのだ。マイノリティと交流をむすぼうなどと思わずに、自分の世界で生きていればよかった。
「可愛いね」
「なに?」
「これ」
おれはさりげなく竜さんにちかづき、エプロンの端を摘んだ。
「ああ、これね。園から支給されてるんだけど……」
呑気な説明がぎこちなく途切れる。突然詰まった距離を不思議に思ったのか、竜さんが顔を上げる。おれはそれを待ち構えていた。顔を寄せる。鼻先がかすかに触れあう。
「な、なに?」
不穏な空気に怯えた竜さんが硬直する。
「おれ、ゲイだもん」
おれは平然と答える。竜さんは完全に腰が引けていた。おれの胸に掌をあてて圧し返す。
「おれはちがうよ!」
「でも、あそこに通ってたってことは、こういうことがあるかもって可能性も考えてたろ」
「とんでもない!」
とんでもないってなんだよ。おれは苦笑いして体を離した。
「冗談だよ。おれだって、べつに竜さん、タイプじゃないし」
一瞬、竜さんの表情が強張った。新鮮な反応だった。竜さんが素直であるという点には疑いをかけずにすみそうだ。
「遊ぶならほかのひととにしろよ。おれなんかからかったってしかたないだろ」
「遊びじゃなきゃいいわけ?」
竜さんは困った顔になった。皺の酔ったエプロンを掌で伸ばして後ずさる。
「おれ、仕事あるから」
「竜さん」
背中を向けかけた竜さんを呼びとめる。
「来週、映画とか行かない?」
竜さんは黙っている。おれの申し出をどう捉えればいいのかわからず、戸惑っている。
「友達ほしいなら、おれでいいじゃん」
友達という言葉に、竜さんの表情が和らいだ。
「マクロスセブンなら」
「わかった」
おれの笑みにつられたように竜さんが微笑む。だらけた足取りで園にもどる。細長いパイプが縦に並んだ柵が、ふたつの宇宙を分断している。
首の裏を掻く。竜さんのことをとやかくはいえない。おれも侵略者だ。
けたたましい子どもたちのわめき声に背を向けて、歩き出した。
ところで、マクロスセブンってどこの国の煙草だ?
おわり。