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蜜月―正臣編―

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自己中の虫


「なぁなぁ、今日はどうする?」
 ホームルームが終わって、正臣は校門の前で待っていた帝人と杏里に声をかけた。二人は真面目に制服を身に着けていて、半袖のカッターシャツが陽光に眩しい。今日は、週末の雷雨が嘘のような晴天だった。何もしないで帰るなんて勿体無いと言わんばかりに、正臣は二人にまくしたてる。
「俺としては、ナンパかナンパかナンパだな。なんか用事あるなら付き合うぞ!」
 正臣の勢いに苦笑しながら、帝人が口を開いた。
「僕今日は買いたい物があるんだけど」
「おー! 行こう行こう! 杏里も行くよな!」
 正臣はここぞとばかりに肩を抱こうかとしたが、杏里の性格を考えてやめた。肩を軽く叩くに留める。杏里は何度か瞬いて、控えめな笑みを作った。
「私は構いませんよ」
「よっしゃー! 決まり! で、どこに行くって?」
 正臣は今日の予定が決まって心が軽くなる。校門を出て、三人並んで街へ向かって歩きはじめた。
「別に大したことないよ。百均行きたいだけ。あと鍋買いたい」
「鍋ぇ? なして鍋?」
「この前うっかり焦がしちゃってさ。再起不能」
 帝人は軽く肩を竦めた。杏里も気の毒そうな顔で帝人を見ているので、身に覚えがありそうだ。
「いかんなぁ、今時の男は料理も出来ないとモテないぞー?」
 正臣がからかう調子で言うと、帝人は心外そうな顔をした。
「別に全然出来ないわけじゃないからね。ちょっとうっかりしただけ!」
「ほーう。じゃあ結構出来るのか」
「いや、微妙」
「どっちだよ」
 杏里を間に挟み、正臣と帝人が軽やかに会話を交わす。正臣と帝人が並ぶとどうしても杏里が遅れてしまうので、これが三人の定位置だ。それが精神的なものなのか、歩幅の問題なのか、正臣はあえて保留にしている。
「杏里は? 料理とかする?」
 正臣は完全に聞き役にまわっていた杏里に声をかける。
「私はあんまり……得意ではないです」
 杏里ははにかみながら、予想通りの答えを返した。
「ま、今時コンビニとスーパーで何でも揃うもんなぁ。でもなぁ、そればっかりじゃ体に悪いぞ! 今度作りに行ってやろうか? 俺料理は一通り自信あるよ?」
「えっと、あの……」
 杏里が返答に困って帝人の方にちらりと視線を向けた。帝人は心得たように正臣をたしなめる。
「もー、正臣。園原さんが困ってるじゃん」
「だって杏里が可愛いんだもーん。ていうか何、今のやりとり。俺除け者?」
 帝人が呆れ顔で溜め息を吐いた。
「それは正臣に原因があると思うんだ」
「ずるい。俺も杏里とアイコンタクトしたい!」
 正臣がそう言いながら杏里に視線を向けると、渦中の杏里は微かに頬を染めて俯いていた。正臣は仕方なしに、杏里を通り越して帝人に視線を送る。その様子を見ていた帝人は、目が合った瞬間に吹き出した。
「ちょ、笑うなよ! ちくしょー! お前も杏里のついでに食わしてやろうと思ってたけど、絶対やらないからな!」
「間違いなくそんな気なかったくせに」
 帝人が呆れた様子で笑う。図星だったので、正臣は空中を見上げて知らん振りをした。その様子を見て、帝人が乾いた笑い声を上げた。

 視線を逸らしたついでに周囲を見回すと、正臣の目に一つの移動販売車が飛び込んだ。最近良く見かけるようになった、ピンクに塗装されたボックスカーだ。正臣は少し考えて、二人に声をかけた。
「なぁなぁ」
 急に立ち止まった正臣に、帝人と杏里が不思議そうな顔で振り返る。正臣は、意識して子供っぽい笑みを作った。
「クレープ食べよ」

 三人それぞれに違う種類のクレープを購入し、黙々と食べながら歩く。
 正臣はチョコレートアイスの挟まったクレープと格闘しながら、横目で二人を盗み見た。杏里はクランベリーソースのレアチーズを少しずつ攻略し、その向こうで帝人は大きな口を開けてツナサラダをかじっている。熱心にクレープに集中している二人の様子に、正臣は顔を俯けて静かに笑った。
「そういえばさ、映画週末って言ってたけど、土曜と日曜どっちにする?」
 思い出したようにクレープから顔を上げて、帝人が尋ねた。大雨で中止になっていた約束は、一週間後に延期になっていた。それを聞いて、正臣はにんまりと笑う。
「土曜にしよう! 週間予報だと日曜は雨だ!」
 正臣は帝人とのチャットで宣言したとおり、天気予報をチェックしていた。この時期はまだ梅雨が明けきらず、ぐずぐずした天気も少なくない。正臣の発言を聞いて、帝人は僅かに苦笑した。
「じゃ、そうしよっか」
「おっけー。杏里も大丈夫だよな?」
 正臣が杏里を伺うと、マイペースにクレープに口をつけていた杏里が慌てて答える。
「あ、はい。大丈夫です」
「よしよし。じゃあ前と一緒で十時に待ち合わせして、適当に遊んで、昼飯食って、映画見て、適当に遊ぶ感じで!」
 正臣が上機嫌で言うと、二人はそれぞれに頷いた。当日の予定が決まったところで、三人は再び食べかけのクレープに専念する。そろそろ、いつも渡る歩道橋が見えてきた。
「そういえばさ、今回の社会Aのテスト超難しくなかった?」
 正臣は思いつくままに二人に尋ねた。今日二人を待たせたのも、六時間目の社会科のテスト返しで、クラスが阿鼻叫喚に陥っていたからだ。真面目に勉強したとは言えないが、しなかったわけでもない正臣も、史上最低点を叩き出した。
「そんなことなかったと思うけど」
 帝人が不思議そうに言う。杏里も同じ表情で頷いた。
「正臣が苦手だからそう思うんじゃない?」
 帝人が小馬鹿にしたような言い方をするので、正臣は気色ばんで反論した。
「違うって! うちのクラス平均30点無かったんだぞ!」
 正臣の発言に、帝人と杏里は目を丸くする。
「え、嘘!? うちのクラスは何点だったっけ?」
「51点だったと思いますけど」
 テストの話で盛り上がっているうちに、三人は歩道橋の階段に辿りついた。正臣は何の気なしに歩道橋の上を見上げる。見慣れない制服の男子学生が、橋部分で固まっておしゃべりしていた。そのうち一人に見覚えがあるような気がして、正臣はその集団に目を凝らした。
 そして、目を見開く。

 正臣の視線の先にいたのは、中学時代の同級生だった。正臣は動揺する。普通ならば、声をかけるか、知らないふりをしてやり過ごすのだろう。しかし、正臣は平静ではいられない。かつての友人を、黄巾族の仲間だった少年を視界に納めながら、こびりついた過去の記憶と葛藤しなければならなかった。
 帝人と杏里はそんな正臣の様子には気付かず、クレープを食べながら階段を上っていく。正臣は引き返すわけにもいかず、苦肉の策で着ていたパーカーのフードを被った。
「あれ、どうしたの」
 流石に帝人が気付いて、正臣に声をかけた。杏里も正臣を見上げる。正臣は幾分控えめな声で返事をした。
「いや、頭熱いなーと思って。日除け」
「なんか元気無い? どうかした?」
 帝人が首を傾げる。喉が詰まったように声を出すのが辛かった。
「クレープが変な所に入っただけ」
 俯きがちにそう返事をすると、帝人はそれ以上追求して来なかった。階段を上り終え、橋の部分にたどり着く。クレープの甘い味も分からなくなっていた。
「大丈夫ですか? 気をつけて下さいね」
作品名:蜜月―正臣編― 作家名:窓子