夢
だが、それがいけなかった。疲労のせいか、それとも油断のせいか。不意に左腕が崩れ、目の前を真下に向かって通り過ぎて行った。地面に頭から叩きつけられた。今まで聞いたことのない音を首から聞いた。しかし、不思議と何も感じなかった。
クラスの仲間達の歓声は悲鳴と焦燥の声に変わり、「だ、誰か保険の先生連れてこい!」「先生呼んで!先生!」という声があちこちから聞こえてきた。
僕は、「いや、大丈夫大丈夫、心配ないよ」と言いながら声を出そうとしたが、それは出来なかった。脊髄を損傷していて、身体を動かせなかったのだ。
遠くに救急車の音を聞きながら、そこで夢は覚めた。
代わり映えのない部屋、代わり映えのない風景、代わり映えのない自分。
あれからもうどれくらいたったのだろうか。もう、年月を数えるのは億劫になっていた。したって意味はないからだ。どうせ、なにもできないのだ。覚えてたって仕方がない。
もう、いっそのこと死んでしまいたい。そう思うが、今の自分では、それすらも出来ないのだ。
看護師さんがつけてくれたテレビの中では、毎年増加する自殺者の話をしていた。今年は不況だったので、さらなる増加が予想されます、とニュースキャスターがそう言っていた。
自分は、彼らが羨ましくて仕方が無かった。彼らには、どんなに苦しもうとも、死ぬ自由があったのだ。自分には、それすらない……。
自分には、何も無いのだ。
他の人間が、夢を達成し、または、失敗して涙を飲み、または、何もせず、または、この世から去っていても。
自分には、夢をみる以外には何も無いのだ。
そして、僕は瞳を閉じた。