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赤頭巾と狼

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 「くろんぼが! 豚畜生め! なめ腐りやがって! 救ってやるのは俺の方だ。お前らみたいな畜生の命をな!」



(闇の現夢の写し絵)
(気をつけて)



まさか不幸にもてなされるとは誰しも考えてはいないのだ。手厚い歓迎を受ければ受けるほど自分の置かれている境遇に自ら問うてみたくなるもの。



(見えるかといって何にもないわけじゃないことぐらい)



「だめ、ね。あなたには紳士の役は無理よ。できてせいぜい死体の役ぐらい、よ。」


血が飛ぶ。部屋中に。撒き散らされる。転げる首。ギロチンですとんとそれを落とすように、綺麗な刃の軌跡でそれは転がった。残った胴体が遅い悲鳴を上げる。真っ赤な悲鳴を上げる。

「ほら、ダン? あなたもそう思うでしょう? 彼には死体の役がぴったりよね? 予想以上にとてもよくできていると思うわ、これならアカデミー賞主演男優賞をもらえるわ。生きてたらの話だけど、ね。」



(闇の現夢の写し絵)
(獣がぎょろりと顔を出す)



「クソったれ!」

「あら、お気に召さなかった? 残念、彼には受賞取り消しの一報を送らないと、だわ。この場合宛先は地獄か、天国かどっちになるのかしら、ね。」

「……あんたいったい何なんだ?」

「何って? わたしはわたし、よ? トマトにでも見えるの? だとしたら眼鏡をかけることをお勧めするわ。」

「……いいか? 俺の知ってるあんただったら、答えてくれ。悲鳴一つ上げずに、人を殺すなんて常人のすることじゃない。あんたはいったい何者なんだ?」


(見たいものだけ見ればいいさ)
(そのかわり目を反らすな)


「誰がそんな馬鹿を言えと言ったのかしら。」

「馬鹿はどっちだ? こんな馬鹿げたことがあってたまるか! 畜生!」

 「うふふ、じゃああなたのなるはずだったステーキとなって現れたほうがよかった? くす、吐き出さずに、最後まで美味しく食べてくれた?」

 ナイフが帰る場所のない首を這う。喉元、口、頬、鼻と刃先を滑らせていく。そして、眼下に来たとき、それを抉った。それはまるで、キャンディのように転がった。

 「う……あんた、今何をしたのかわかってるのか?」

「ええ、もちろん。あなた以上に、ね。」

 それはキャンディよりもはるかに脆い。齧ることはキャンディのそれより容易い。

 「……ああ、そうだ。認める。あんたは、俺以上に、異常だ。」



(闇の現夢の写し絵)
(それは真実)



「残念ね。」

「ああ、残念だ。」

「わたしたちこれで、終わり、ね。」

「……ああ。」



(闇の現夢の写し絵)
(それは真実)



「会えたらまた、会いましょう。」



(見たいものだけ見ればいいさ)
(そのかわり目を反らすな)



「きっとね。」



(見たいものだけ見ればいいさ)



「もう貴方にはわからないだろうけれども、ね。」



(決して目を離すな)




夜七時のニュースをお伝えします。郊外で死体が発見されました。若い男性の遺体です。警察は身分証明名証からダン=ホプキンスさんのものと確認を急いでおります。また郊外付近で起きていた一連の奇怪な殺人事件の犯人として警察はステーキハウス「ソーニー」の店主テッド=ベインの行方を追っています。



(どこか遠くの星で)
(死んだ花の魂が)



「ほら、また会えた。」

素敵、よ。前と変わらず。わたしの知ってる、あなただもの。

「それじゃあさようなら。」



(どこか遠くの星で)
(死んだ花の魂が)



狼がやったら怒られることでも、狩人がやったら怒られないことがある。それならば、赤頭巾がやっても怒られないのよ。




(アウトロ)



午後七時のニュースをお伝えします。マーティンルーサー=キングの演説で云百万の民が白昼の下に照らされた様に、憐れな狼が陽の下に引きずり出されました。

作品名:赤頭巾と狼 作家名:田中恵