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ブスな心が恋してる!貴方がいるから・・・(3)

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「僕は、まず、左目の治療に専念して!」
「右目の提供者が現れた時には!」
「ありがたく、感謝して頂き、その人の分も眼を大切にして!」
「すこしでも長く、生きて行くつもりだ!」
「たぶん、提供者の方は!」
「たくさんの思いを残しての人生が終わるわけだろうからね・・・」
両親から、純ちゃんのようすを聞きながら、やはり、彼は精神的にも強い人だと確信
した!


(四十四)
カコは純輔の姿を想いながら、両親の話を聞き、まだ、両目とも、何も見えてはいな
い状態でも、希望が持てる純輔の姿を思い浮かべて少し眩しく感じた。
カコは今すぐにでも、純ちゃんに逢いたかった!
「声を聴きたいし!」
「抱きしめて欲しい!」
そう願いながらも、カコはベットから起き上がる力も無いほど急激に体が弱っていた。
カコは両親から、純ちゃんのようすを残さずどんな些細な事でも聞いてはいても、姿
を観て確かめたかったが、その勇気が出てこないし、体が動いてはくれない!
あの感の鋭い純ちゃんのことだから、すぐに私の変化に気づいてしまう、たとえ、今
は何も見えなくても、私の今の状態を見抜いてしまう、私は、ベットから出てはいけ
ないとも思った。
純ちゃんの眼が、左目だけでも、視力を快復するまでには、私自身の今の状況を改善
させなくてはいけないとかたく決心した。
必死で体力をつける努力をして、やっと何とか体を動かせるまでに快復して時、母に
頼み、起こしてもらい、車椅子に乗せて貰って、純ちゃんの姿をそっと遠くからみて
純ちゃんの痛々しい姿を確かめるしかなかった。
声もかけられず、お互いを励ます事も出来ずに、じっと、その場所から、自分が耐え
られる間をぎりぎりまで、純ちゃんを見ていた。
純ちゃんは一人でぽつんとイスに座ったまま、窓の方を向いたまま動かずにその場所
にいた。
すこし時をおいて、私の父が純ちゃんのそばに行った!
純ちゃんに何か、話しかけて、窓際から、ベットの内側に、父に手を取られながら純
ちゃんは移動した、私が純ちゃんを寄りはっきりと見れる位置の場所へ、父と共に移
動してくれた。
しばらく、私は呼吸さえも抑え気味にして、純ちゃんが私に気づく事を心配した。
母と私は、声を出さずに、うなずきあいして、その場所を離れた、何度も振り返りな
がら、純ちゃんの姿を追って、見ていたけれど、やがて、エレベーターが私を運んで
くれて、私のいる部屋、5階についてしまった。
純ちゃんが入院している眼科病棟は7階だった、わずかの位置に純ちゃんはいても、
私に逢えない事が不振感を募らせて、純ちゃんは今まで私たちに見せた事のない我儘
な言葉で、父に何度も問い、聞こうと、父を呼び出す!
私の電話には繋がらない事が、とても気がかりのようで、時には・・・
「なぜ、カコに逢わせてくれないのかと詰め寄り、いらだつ様子だと・・・」
父は、そんな時、「カコは体調がすこし悪いので、家にいる!」
「君の事故の事は、カコにはまだ話していない!」
「君の今の状態を見たら、きっと、驚くし!」
「心配して、カコの体によくないからね!」
「せっかく、退院出来たばかりだから・・・」
「もう少し、待ってくれないか?」
そうなのです、純ちゃんには、私は、退院した事になっていたのです。

(四十五)
私の病気は、乳がんの初期だったと、両親から、純ちゃんに伝えられていたのです。
純ちゃんには、私は乳がんの手術も成功したが、すこし、快復が遅くて、大事を取って、退院後も家で静養していると伝えられていた。
「元々の持病である、免疫の低下もひどく!」
「今は感染症に気をつけて生活しなくてはいけないから!」
「カコは外出をドクターからとめられていてね~」
父は純ちゃんに対してつらい嘘を重ねるしか方法がなかった。
今、純ちゃんの眼が見えない事が私はとても心配だけれど、私は、乳がんだけではなく、すでに肺に転移していて、おそらくは脊髄と胃にも転移の兆候があり、体力の快復を
待って、検査をするのだとは、純ちゃんに正直に言えない事だった!
純ちゃんの左目がある程度視力が戻ってきた時に話せば、きっと、純ちゃんは、分か
ってくれるはずだと、私が判断して、両親に頼んで、固く口止めをしていた。
私の体はそう簡単に体力が快復するほどの病状ではなかった。
それでも、ひと目、純ちゃんの姿を見た事で、私は不思議と気力が出て来て、奇跡的に、検査を受けられる状態に体力が快復した。
その絶好の機会を逃さずに、私は検査を実行した、ベットからひとりで起き上がれな
いほどの衰弱した私の体は、又しても、純ちゃんからの元気エネルギーを少しだけ分
けてもらったように思えた。
まず、急を要する脊髄の検査と胃の検査を受けて、その後に全身の検査がおこなわれた。
その結果は、あまり時間を置かずに結果はわかった。
あまりにも、ショッキングな結果が報告された!!!
肺への転移はすでに、乳がんの手術で分かっていたが、もう、手術出来る状態ではなく、脊髄にはまだ転移はしていなかったが、胃への転移は、間違いのない状況だった。
しかも、進行の早い「スキルス性胃がん」で、手術は難しい段階だとはっきりと検査
結果が出た!
ドクターの話す言葉が、何処か遠い異国から来た、ロボットの機械音のように聴こえて、私は、自分の事として、直ぐには受け止められなかった。
ただ、体の中を通り過ぎて行く言葉なのか音声だけがこの耳に聞こえていた!
私のいる病室の窓から眺める景色は、昨日と何も変わっていないのに、なぜか、どの
樹木も赤茶けて光もなく、薄黒く見えて、とても美しいなどとは言えない色彩だった。
そうかと思えば、誰かが何の為なのか?私に拍手を贈っているような錯覚がして、怒
りがこみ上げてくる!
そして、その日を境に、病院での治療も私に接するすべての人々の態度も急に粗末で
不親切になった気がした!
ただ、点滴を絶え間無く打ち、私の体に毒物を注入しているような悪意さえ感じてし
まう!
ベットから起き上がれない体が疎ましくて、怒りといらだち、誰、かれ、かまわずに
八つ当たりして見たりと、自分がだんだん惨めで、嫌な人間に変わっていく姿を、私
自身は体からはなれた場所で自分の姿を見ているような感覚だった。

(四十六)
現実の私なのかさえ理解出来ない精神が定かではない、そんな状態と全身の痛みは同
時進行で、私をいたぶり続ける!
もうだいぶ前から、あの身体中が痛かったのは、こんな悪い物が私の体に棲みついて
いたからだったのかと思うと、今更ながら、鈍感な自分が嫌になって来る・・・
あの衝撃を受けた告知を受けた時から、どの位の日々が過ぎたのか、相変わらず、私
の体は、点滴のチューブにがんじがらめになって生きていた。
はっきりしない意識の中で、ふと、純ちゃんは今どうしているのだろうかと考えて、
私はうなされるように、突然、両親に問いただしたが、しばらくの間、ふたりは黙っ
たままだった。
そして、父と母は覚悟をして思いつめたように・・・
「純輔君、まだ、あの時のまま、両方とも眼は見えないんだ!」
「左目もまだ、視力は快復してないんだよ!」
「御医者さんは、もう、とっくに、左目は見えるはずだと言ってるけどね!」