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【黒歴史】 全速力で走る霊 【2002年(18歳)】

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3. 幽霊協定

沢村は、1年間に俺と同じ位休んでいた。
最も、そいつは俺と違って、
健康上の理由が主立ってはいたが。
その為にヤツの存在に6月まで気付かなかった。
あいつを構成するファクターは、恐らく非常に単純で、
複雑なものだ。
Yシャツの一番上まで締めたボタン。
もやしマン、参上、てな感じ。
手首には、無数の切り傷。その全てが中途半端な浅さで
終わっており、動脈には掠りもしていない。
しかし、時々あいつが見せる目の底には、
得体の知れない猛獣のような闇が潜んでいる気がする。
キレたら、俺以上に何をするか解らない。
一瞬にして、俺の手の届かない所へ登ってしまいそうな、
そんな危うさに関する敏捷さを携えていた。

「俺は、人生に何も期待しない事にした。
期待しなければ、絶望しない。だから、
俺は、生きる事も死ぬ事もしない。強いて言うなら、
幽霊みたいに暮らすのが、俺の人生の目標」
「幽霊?」
「誰にも干渉しないし、誰も俺に干渉しない。
誰一人、俺の顔を知らないし、覚えていない。
地球上からいつ消えたって気付かれない。
それが、最も楽な生き方の理想形であり、人生の目標。
そう、俺は誰の心にも踏み込まない。
だから俺の心の領域には誰も踏み込むな。
沢村、これはお前にも言ってるんだぞ」
「それは良く解るよ。たぶん沖史くんと僕は
ほとんど同じベクトルで行動してる」
「何だって?」
その言葉は、的外れだと言いたかったが、反駁できなかった。
全てを見透かされた気が拭えなかった。
「だからこうしよう。
協定ならいいだろ?お互いの、より良い、快適な生活の
ために、協定を結ぼう。幽霊協定」
「何だよそれ」
「そもそも誰にも干渉しないなんてのは不可能だ。
この社会で曲りなりにも暮らしていく以上ね。
コンビニに行ったら店員や他の客がいる。
図書館に行ったら他の人間にも会わなきゃいけない。
絶対に最小限、どうしても人と接触する必要が出てくる。
だから、可能な限り、幽霊同士で出来る事を
補い合うんだ。必要なだけ共同で購入する、
生協みたいな。日常生活での、生協さ」
幽霊にも生協。ずいぶん世知辛い考え。
「まぁいいか。お前を追い払うことすらめんどくさいし。
俺は思う。快適な暮らしの為に、絶大な労力を使う。
こんなバカバカしい事はないだろう?