うそみたいにきれいだ
縁日の彼ら そのに
(土岐川さんと緑くん)「みどり。帯ゆるんでる」
「え、うそ」
「うそ」
「なんだよ。わ、ちょっと、ひっぱんないで下さいよ」
「あ、すまんほんまにほどけた」
「おーい」
あきれたふうの可愛い顔をするのを引き寄せて風船つりと水笛のあいだに連れ込み、帯を直しにかかる。
思いのほかじっとおとなしくしているのでわざときつめに締め上げると、後ろ手に腹をつねられた。
形のいい後ろあたまをもたげて、喧騒になずまない高めの声がぽつりと呟く。
「一緒に行こって言ったくせにさあ」
「どうしたんあの子は」
「今日は店が浴衣デーだから」
「ほーお。ええこと聞いた」
「よくないですよ。あんな室内で浴衣なんて全然」
「つうかお前、俺とうかうか祭なんか来とってええんかい。バレるぞ意外に」
「いいです別に。あいつあれでけっこう土岐川さんのこと信用してるもん。俺だって、」
「何」
「だって、土岐川さんだってあのひとと来たかったでしょうから」
「……身もふたもないことを」
「真実です。まあ、あぶれた組で仲良くしましょうよ」
怒られないていどにね。
腰をつかまえようとのばした手にすかさず釘をさされて、渋々ひっこめる。
この手できつく締めなおされた帯のむすび目は、アパートに帰りつくころには思わせぶりにゆるむのだろう。
どの部屋へ帰るのかは、知らぬ存ぜぬ。
作品名:うそみたいにきれいだ 作家名:むくお