うそみたいにきれいだ
縁日の彼ら そのいち
(みちると荘一とすみれちゃん)うだつのあがらないフリーター青年は世をしのぶ仮の姿、みちるさんはスナイパーである。ただし、ノーコンである。
ゲーム機を狙った結果撃ち落とされた戦隊もののフィギュアをもらって満足そうなそうちゃんは、浴衣の帯にそいつを挟んで目もあてられない姿に仕上がっている。
今は怪しげな祭フードを物色するのに夢中になっている彼と、彼の彼であるみちるさんの少し後ろを浴衣にサンダルばきでぺたぺた歩いていた私は、ふと背後に気をひかれて立ち止まった。
振り返ると、白熱電球のとろんとしたあかりにイカだのタコだのの煙が被さって、通りにあふれた人も金魚もわたあめの袋も、粒子の荒い映画のひとコマみたいにふわふわうわついて見えた。
「すみれー?」
「ん、」
「何やってんのお前。迷子んなってもしんねえぞ」
「……そのかっこで言われたくないかな」
向き直った先で、二号機と目が合う。
その後ろでスナイパーの威厳もなくすっかり荷物持ちにされているみちるさんは、冷やしパインをかじりながら視線をちらりと私の向こうへやって、あ、という目をした。
それから私の顔を見て、何も見ませんでしたよというふうに肩をすくめてみせる。
「何、なんかほしいのあったわけ」
「いいや。あ、私じゃがバター食べる」
「つまらんチョイスだなー」
「そうちゃんは奇をてらいすぎだから」
さりげなく手前に立ってくれたみちるさんの影に隠れて、私は金魚とわたあめと映画の主演たちが通り過ぎていくのを、盛りつけられていくじゃがバターを、へんにおだやかな気持ちで待つのだった。
作品名:うそみたいにきれいだ 作家名:むくお