小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

laughingstockーruis-

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

ルイスがリーフを抱くようにして、沈み込んだ腕の先に手を触れさせる。
途端、飛び散るのは血ではなかった。ただ、コードが切れて舞い上がった。腕を切り落として、平衡感覚を失くしてそのまま倒れそうになるのを抱いてくれていたルイスが支える。
痛みはない。ただ、鋭利な切れ口が残るだけの片腕を庇うように顔を歪める。

「・・・はっ!本当に、体力を使うものなんだな・・・」
「軽いショック状態だろう。大人しくしておいで」

ルイスに諭すように言われ、リーフは頷く。切られた腕はシオンの胸に沈み、跡形もなくなる。

「ふむ・・・百年の記憶ぐらいしか流れ込んでこないな。そう言えば、お前は私が感情を忘れるように造ったのだったな。
 しかしおかしい。今のお前ははっきりと自分の感情を残している。現在から百年辺りの記憶を手に入れれば分かるのかも知れないな」
「シオン・・・」

「おお。ルイス。お前ももちろん頂かせてもらおう。数千年私と違う生き方をしてきたpielloを初めて手に入れることで、私は一つになる器を手に入れることができるかもしれないな」

シオンが、力を生み出そうとする。それをどうにかするためにルイスが構える。
強大な力。ここではシオンの方が有利だった。
ルイス一人で如何こう出来るものではない。リーフはルイスの腕に自分の手を添える。
右目の紋様が熱い。また、発熱しているようだった。
しかしリーフは構っていられなかった。今は全身全霊を賭けてルイスを護ることしか頭になかった。
シオンにルイスを渡してしまえば、ここまで来た目的を達することはできない。リーフはルイスの願いを叶えに来たのだから。

(どうしたら・・・ここを切り抜けられる・・・!?)

キアラはいない。リーフも万全とはいえない。いくらルイスが強くとも今回こそは危険な気がしていた。
彼を止める方法はないのだろうか。

紋様が痛む。訝しげに触れてみる。途端、思い出すのはシオンとの記憶。

〈リーフ、もし私がねおかしくなったら・・・・〉

〈君に頼みたい事があるんだ〉

どうしようもない教育係だったのだろう。あの頃は何に対してもどうでもよかったから、覚えていなかったのだろうか。
(違う。一緒にいた・・・なんで忘れてたんだろう・・・)

〈いいよ。覚えてたら叶えてあげる〉

そう答えたのは

(僕だ・・・)

彼が何度も謝るから、でもリーフは生まれたことすら何の価値も感じていなかったから安易な約束をした。
それを忘れていた。

-僕の言葉を君の中に残しておくから、僕にいつか届けてほしい-

「・・・そんなことでいいのか」

正しい事なのだと頭が分かっていた。彼が謝っていた理由を知った。
今のリーフとなって、これほど重大な決断になるとは思いもしなかった。ここまで来なかったら、きっと何の思いも無く彼の中に入って終わっただろう。

「ルイス」
「どうした?」

整えられた髪に、乱れない化粧。中性的な顔立ちの彼。ここまで一緒に来れたことに不思議な気がする。
最初から分かりあいにくい相手だった。

「・・・なんでもない。終わらせて、帰ろう」
「?ああ・・・そうだな」

綺麗な横顔にふと聞いてみたくなって尋ねた。

「ルイスは何もかも終わったら、故郷に帰るのか?」
「・・・そう・・・だな。何もないあの街に帰ろうと思っている。我の帰る場所はあの街だけだからな・・・」

自嘲気味にどこか遠い眼をして彼は微笑んだ。その腕は迫る力に耐えるように伸ばされている。
リーフも彼に少し笑って見せた。

「僕も行っていいかな・・・?人形だからさ、もう行くところがないから」
「ふふ。綺麗に着飾って置いておいてやろうぞ」
「やだなぁ。化粧させられそうだ。おもちゃにしないでね」
「・・・我が触ることのできた者だ。大切に扱ってやろうとも。
 人形のお前ならこの長い生を共に生きる相棒となろう」

その言葉にリーフは驚きを隠せなかった。ルイスは未来を楽しそうに話す。その中に自分を含んでくれるとは思いもしなかった。
リーフはこみ上げる感情を隠し、彼の手に手を重ねた。

「・・・そうだね。一緒だ」

前を見据えてルイスの傍に近づく。
シオンの力は増していく中で、ルイスが自分の力をシオンにぶつける。
衝突が生まれる。煙が生まれ、互いの姿が見えなくなりながらも拮抗した力がぶつかりあっていることが分かる。
その中でリーフはシオンに気付かれないように近づく。

(気配を消すのも隠れるのも得意だから)

シオンが気付く前にその口を手で塞ぐ。ルイスにぎりぎりまで気付かれてはいけない。
心だけはどうかシオンに奪われないで終わらせたいとリーフのどこかが叫ぶ。リーフは怯んだ彼に体を寄せる。
触れた部分から彼の身体に沈んでいく。

(これでいい)

頭ががんがんと響き、真っ白となっていく。何も考えることができなくなっていく。
同時にシオンの動きも鈍くなっていく。ルイスの力が勝ち始めている。

(あ・・・ルイスって誰だっけ・・・)

よく分からなくなってきていた。でもこれでいいと分かっていた。
リーフの望む結末はそこに在ると分かっていたから。

「リーフ・・・!!!」

意識が途切れる瞬間。誰かの悲しい声を聞いたのに。
応える前に、身体がばらばらになるのを感じて目を閉じた。
作品名:laughingstockーruis- 作家名:三月いち