laughingstockーruis-
光に呑まれながら、彼の力が干渉しなかったのはルイスの力のお陰だったと知る。
辿り着いた先はガラクタ置き場ではなく、本当の意味で彼の世界だった。
向こうの世界と同じ空気でまったく違うシオンの世界。そこでシオンを見た。
ウサギの姿をしていたのだろうたくさんのシオンがいた。彼らは顔を合わせ、ああでもない、こうでもないと話している。その傍で同じ顔のシオンがもう一人のシオンを壊していた。
此処に吸収された記憶などが集まり、統合しようとしているのだろうか。
あまりに馬鹿らしく、無謀なことだった。
その中に、一人だけ見たことのあるシオンがいた。あれは、おそらくリーフの『シオン』だろう。
生まれてすぐに消えた彼は此処にいたのか。
違う。ずっと傍にいたのに気付かなかっただけだった。
「・・・そうか。僕の名も無きウサギが君だったんだね。シオン」
そう問いかけるとシオンは、何故?と口だけ動かした。
名も無きウサギは此処へリーフを連れてきたくはなかったのだろう。だからこそ一人で此処へ戻った。彼はそういう人格を持っていたから。
これはリーフの裏切り行為だ。そして自分のウサギを敵に回した瞬間だった。
彼の表情がぐにゃりと歪む。ウサギが牙を剥く瞬間をこの目で見るとはリーフ自身でも想像もつかなかった。だから
「ごめん」
ずっと傍にいたからこそ。必要としてきたからこそ。リーフが終わらせるしがらみだった。
(もう、起こしてもらえない。一緒に向こうに行くことも無い。・・・願いを僕が叶えることも無い)
「ごめん・・・」
シオンの姿形をした自分の友を切り刻む。跡片も無いようにすべて。血肉を吹き飛ばして風で切り刻む。
彼がリーフの元までやってくることはもう無い。
でも彼はいつも最後にはリーフの選択を責めはしなかった。
(今も・・・ほら穏やかに目を閉じてる・・・)
同じように風を感じたからルイスを見ると、ルイスの傍にもシオンが一人。
両目を塞がれたシオン。
その包帯を丁寧にルイスが取った。
その眼ははっきりとルイスを映し、ルイスに語りかけた。
「ずっと待っていた。ルイス。私の相棒」
その手に持つのは凶器。
ルイスは逃げない。痛ましく彼を見上げるだけだった。
「壊したかった。私の完璧な相棒。貴女に代わる者はいなかった。
貴女ほど私を侮辱した者もいなかった。まっ先に私の本質を見抜いた危険分子。
オリジナルが欲しがった貴女。私はオリジナルにも貴女を渡したくなかった」
「だから我をずっと追い続けてきたのか?新しい相棒を殺し、見境なくpielloを殺しながら、我だけを」
「貴女に代わる人はいなかった。私を苦しめる貴女だからこそ、本当に必要とした。その反面、壊してしまいたかった」
「知っているとも。お前は愚かだ」
「だから、こうしてお前の前に来てやったんだ」
「ああ。本当に夢のようだ。何千年も待ちつづけた」
おそらく彼はルイスに触れると拒絶される。今はルイスに触れていない。しかし触れることがなくても、彼はとても嬉しそうだった。どこか狂気を孕んだ眼で。
ルイスはすべて分かっているのだろう。逃げだしたほどなのだから。
「少しも変わらないのだな・・・ウサギ。本当に、我はこの世界が嫌いだ」
「私は好きだよ?この世界はルイスを閉じ込める力があるから。そうすれば、ルイスはもう遠い場所を追い求めなくていい」
「本当に、嫌になる」
ルイスの手がシオンに触れる。シオンの驚く顔とルイスに向けて振りおろそうとしていた刃物は同時だった。
その切っ先が触れる前にシオンは炎に包まれる。熱さに、溶ける肌に、不思議そうな彼にルイスは何も言わなかった。ただ、燃え尽きるまで力を振い続けた。
何か言いたげだった彼に何も伝えなかったルイスは薄情だったのだろうか。ひとつも伝えることがもうルイスの中には何もないのかも知れないと思った。
「自分のウサギを自分の手で葬った感想はどうだ?」
現れたのは同じ顔のシオン。ただ、彼ら以外にルイスとリーフを認識した者だった。おそらくオリジナルに近いのだろう。
「今回のシオンの依代はお前か」
「今回?」
「毎回、依代となるウサギは違う。厳選されたウサギがシオンを形造る。お前と我のウサギはもういない。ならば吸収した誰かのウサギの人格が前に出てきているのだ」
その中にオリジナルの記憶が入っているのだろう。もしくは何人か吸収して一人となっているのかも知れないと思った。
「今回が私で良かった!人形とルイスという稀に無い客を我の中に呼ぶ事が出来たのだから!!」
シオンの心底嬉しそうな声にシオン達が振り向く。彼に嫌悪を表わす者、憧憬の視線を向ける者、怯える者など多くの反応を取っていた。
まったく一つに統一しないこんな世界を彼は一つにしようとしていたと思うとやはり無謀だとリーフは思った。
「何千年も繰り返すことでこんなに自分を造り上げていったんだろうな」
ルイスが疲れたように、彼から視線をそらし、このよく分からない空間を見ている。
「ここが彼の中で、彼もまた葛藤で苦しいならば、もういい加減終わらせてやるべきだ」
「彼が死んだらどうなる?」
「こちら側の世界は消滅するだろうな。彼の意志の世界だから」
piello達はどうなるのだろう。pielloとなった者の第二の家と言えるべきこの世界が消えたなら。
「どうなるのだろうな・・・?ただこのままでは向こうの世界の均衡が壊れる。
それだけ分かっていれば、我はもういい」
ルイスの諦めの混じる言葉に、彼の深い絶望を知る。同僚を、ウサギをこの世界を手に掛けようとしているのはリーフではない。ルイスだった。
その細い手をリーフは握る。
「一緒に行けばいい。先に何があろうと、僕は君の共犯者だから」
ルイス一人で苦しみは背負わせはしない。忘れてしまうまではリーフも共犯者だった。そういって彼に近づく。
自分の知る彼とは違う顔に嫌気がした。同時にもう居ないのだとようやく実感してしまった。
だから動けなかった。
彼がリーフの腕を取って、自分の胸に近づけても。
「え・・・?」
リーフが不思議に思って彼を見る。彼は何も言わずにその手を自分の胸へのめり込ませた。
音を立てて沈んでいく自分の片腕を見つめる。おかしい現象に危険だと頭の中で警鐘が鳴る。しかしもう手遅れだと知ったのは一瞬後だった。
「ぇ・・・・ぅあああああああああああ!!!!!」
しゃがみ込もうとして腕がぴくりとも動かないことを知る。
うばわれるうばわれるうばわれるうばわれる。
今までリーフを形造っていたものを彼に奪われる。飲み込まれていく。
ウサギと会って、数百年という時間を共に歩んで、誰に会った。
「呑まれるな!!!リーフ」
そう、これは・・・ルイスだ。
分かることにほっとして、それでも奪われる感触に腕を引き抜こうと力を入れるがどうにもならない。仕方なくリーフは縋るようにルイスを見つめる。
ルイスは意図を理解したように頷き、近づいてきた。
「・・・頼む。これ以上、自分じゃなくなるのはごめんだ」
「・・我でも無理だろう。だから、少し痛むかもしれないが耐えてほしい」
辿り着いた先はガラクタ置き場ではなく、本当の意味で彼の世界だった。
向こうの世界と同じ空気でまったく違うシオンの世界。そこでシオンを見た。
ウサギの姿をしていたのだろうたくさんのシオンがいた。彼らは顔を合わせ、ああでもない、こうでもないと話している。その傍で同じ顔のシオンがもう一人のシオンを壊していた。
此処に吸収された記憶などが集まり、統合しようとしているのだろうか。
あまりに馬鹿らしく、無謀なことだった。
その中に、一人だけ見たことのあるシオンがいた。あれは、おそらくリーフの『シオン』だろう。
生まれてすぐに消えた彼は此処にいたのか。
違う。ずっと傍にいたのに気付かなかっただけだった。
「・・・そうか。僕の名も無きウサギが君だったんだね。シオン」
そう問いかけるとシオンは、何故?と口だけ動かした。
名も無きウサギは此処へリーフを連れてきたくはなかったのだろう。だからこそ一人で此処へ戻った。彼はそういう人格を持っていたから。
これはリーフの裏切り行為だ。そして自分のウサギを敵に回した瞬間だった。
彼の表情がぐにゃりと歪む。ウサギが牙を剥く瞬間をこの目で見るとはリーフ自身でも想像もつかなかった。だから
「ごめん」
ずっと傍にいたからこそ。必要としてきたからこそ。リーフが終わらせるしがらみだった。
(もう、起こしてもらえない。一緒に向こうに行くことも無い。・・・願いを僕が叶えることも無い)
「ごめん・・・」
シオンの姿形をした自分の友を切り刻む。跡片も無いようにすべて。血肉を吹き飛ばして風で切り刻む。
彼がリーフの元までやってくることはもう無い。
でも彼はいつも最後にはリーフの選択を責めはしなかった。
(今も・・・ほら穏やかに目を閉じてる・・・)
同じように風を感じたからルイスを見ると、ルイスの傍にもシオンが一人。
両目を塞がれたシオン。
その包帯を丁寧にルイスが取った。
その眼ははっきりとルイスを映し、ルイスに語りかけた。
「ずっと待っていた。ルイス。私の相棒」
その手に持つのは凶器。
ルイスは逃げない。痛ましく彼を見上げるだけだった。
「壊したかった。私の完璧な相棒。貴女に代わる者はいなかった。
貴女ほど私を侮辱した者もいなかった。まっ先に私の本質を見抜いた危険分子。
オリジナルが欲しがった貴女。私はオリジナルにも貴女を渡したくなかった」
「だから我をずっと追い続けてきたのか?新しい相棒を殺し、見境なくpielloを殺しながら、我だけを」
「貴女に代わる人はいなかった。私を苦しめる貴女だからこそ、本当に必要とした。その反面、壊してしまいたかった」
「知っているとも。お前は愚かだ」
「だから、こうしてお前の前に来てやったんだ」
「ああ。本当に夢のようだ。何千年も待ちつづけた」
おそらく彼はルイスに触れると拒絶される。今はルイスに触れていない。しかし触れることがなくても、彼はとても嬉しそうだった。どこか狂気を孕んだ眼で。
ルイスはすべて分かっているのだろう。逃げだしたほどなのだから。
「少しも変わらないのだな・・・ウサギ。本当に、我はこの世界が嫌いだ」
「私は好きだよ?この世界はルイスを閉じ込める力があるから。そうすれば、ルイスはもう遠い場所を追い求めなくていい」
「本当に、嫌になる」
ルイスの手がシオンに触れる。シオンの驚く顔とルイスに向けて振りおろそうとしていた刃物は同時だった。
その切っ先が触れる前にシオンは炎に包まれる。熱さに、溶ける肌に、不思議そうな彼にルイスは何も言わなかった。ただ、燃え尽きるまで力を振い続けた。
何か言いたげだった彼に何も伝えなかったルイスは薄情だったのだろうか。ひとつも伝えることがもうルイスの中には何もないのかも知れないと思った。
「自分のウサギを自分の手で葬った感想はどうだ?」
現れたのは同じ顔のシオン。ただ、彼ら以外にルイスとリーフを認識した者だった。おそらくオリジナルに近いのだろう。
「今回のシオンの依代はお前か」
「今回?」
「毎回、依代となるウサギは違う。厳選されたウサギがシオンを形造る。お前と我のウサギはもういない。ならば吸収した誰かのウサギの人格が前に出てきているのだ」
その中にオリジナルの記憶が入っているのだろう。もしくは何人か吸収して一人となっているのかも知れないと思った。
「今回が私で良かった!人形とルイスという稀に無い客を我の中に呼ぶ事が出来たのだから!!」
シオンの心底嬉しそうな声にシオン達が振り向く。彼に嫌悪を表わす者、憧憬の視線を向ける者、怯える者など多くの反応を取っていた。
まったく一つに統一しないこんな世界を彼は一つにしようとしていたと思うとやはり無謀だとリーフは思った。
「何千年も繰り返すことでこんなに自分を造り上げていったんだろうな」
ルイスが疲れたように、彼から視線をそらし、このよく分からない空間を見ている。
「ここが彼の中で、彼もまた葛藤で苦しいならば、もういい加減終わらせてやるべきだ」
「彼が死んだらどうなる?」
「こちら側の世界は消滅するだろうな。彼の意志の世界だから」
piello達はどうなるのだろう。pielloとなった者の第二の家と言えるべきこの世界が消えたなら。
「どうなるのだろうな・・・?ただこのままでは向こうの世界の均衡が壊れる。
それだけ分かっていれば、我はもういい」
ルイスの諦めの混じる言葉に、彼の深い絶望を知る。同僚を、ウサギをこの世界を手に掛けようとしているのはリーフではない。ルイスだった。
その細い手をリーフは握る。
「一緒に行けばいい。先に何があろうと、僕は君の共犯者だから」
ルイス一人で苦しみは背負わせはしない。忘れてしまうまではリーフも共犯者だった。そういって彼に近づく。
自分の知る彼とは違う顔に嫌気がした。同時にもう居ないのだとようやく実感してしまった。
だから動けなかった。
彼がリーフの腕を取って、自分の胸に近づけても。
「え・・・?」
リーフが不思議に思って彼を見る。彼は何も言わずにその手を自分の胸へのめり込ませた。
音を立てて沈んでいく自分の片腕を見つめる。おかしい現象に危険だと頭の中で警鐘が鳴る。しかしもう手遅れだと知ったのは一瞬後だった。
「ぇ・・・・ぅあああああああああああ!!!!!」
しゃがみ込もうとして腕がぴくりとも動かないことを知る。
うばわれるうばわれるうばわれるうばわれる。
今までリーフを形造っていたものを彼に奪われる。飲み込まれていく。
ウサギと会って、数百年という時間を共に歩んで、誰に会った。
「呑まれるな!!!リーフ」
そう、これは・・・ルイスだ。
分かることにほっとして、それでも奪われる感触に腕を引き抜こうと力を入れるがどうにもならない。仕方なくリーフは縋るようにルイスを見つめる。
ルイスは意図を理解したように頷き、近づいてきた。
「・・・頼む。これ以上、自分じゃなくなるのはごめんだ」
「・・我でも無理だろう。だから、少し痛むかもしれないが耐えてほしい」
作品名:laughingstockーruis- 作家名:三月いち