laughingstock9-3
9章3
つれてくるならもっと大事に扱え。
放り出されてそのまま床で伸びていたら彼の気配は消えていった。
見覚えのある城内に本気で死にたくなって倒れたままでいたら、意識を取り戻したらしいリーフが立ち上がったのが見えた。
そしてこちらに手を伸ばしてくる。
「・・・大丈夫だ。ただ少し毒に中ったようなものだから」
やんわりと断り、嘔吐を抑えるためにも目を閉じてやりすごす。
彼の気配が和らいだのはリーフの風のおかげだったことを思い出す。そのおかげでもうすぐ立つことができそうだった。薄目を開けて彼に小さく呟いた。
「ありがとう。・・・助かった」
難儀な身体。この身体がなかったら生きることはできなかった。リーフは長く伸ばしている三つ編みを払い、服を叩きながらこちらを不思議そうに見下ろす。
「一緒に来てもらわないといけないからね。君に倒れられても困る」
「・・・そうだな」
ルイスも立ち上がり、側に落ちていた傘を拾ってリーフをまっすぐ見つめなおす。
あの時、その言葉のとおりにルイスを打算的に見ており、行動したのならばリーフは此処まで来る事はできなかったことに気付いているだろうか。触れた瞬間、彼を切り刻んでいるのはルイスの手だったはずだった。
彼は見た目通りのpielloではなくお節介な面を持っているようだった。
(だからこそあのウサギと上手くやってきたのかもしれないな)
「何故、微笑んでいるんだ?」
問われて自分の表情に気付き、口元に触れる。笑っていたことに気付かないほど無意識に行っていたらしい。
「・・・なんでもない。気にするな」
真実の言葉は彼を変えてしまうとルイスは思う。変わった結果が今の彼なら今のままで彼らに会いに行ってほしいと思う。それがルイスを護る武器となる。この静まり返った廃城で敵味方分からない中でお互いさえも状況が変われば敵になるだろう状況で、ルイスの唯一の味方は彼の情だった。
(これほど不確定なものは無い)
彼が「彼」を引きずり出すことができればルイスの願いは叶えられる。
リーフの後ろを歩きながら、暗く灯りさえも遠い廊下を歩いていく。喋ることなく黙々とリーフは進んでいく。道を間違っているわけではないので言うこともない。
なんとなく分かるものなのかもしれない。リーフにとっては回帰となるのだろうから。
「・・・リーフ、お前はこの騒動が終わればどうする?」
「・・・・答えは着いてから決める」
リーフの返事はそっけない。彼の額に脂汗が浮いているのがわかった。よく見ると身体の動きがおかしかった。まるで人形のような動き方をしている。
「お前、身体は辛くないの?」
「身体を定期的に休めないといけないところを無理してるから。生命に支障は無いけど、人の振りをすることが難しくなるのは本当のようだ」
不自然な動きにルイスは横から支えようとして逆に距離を取られた。不敵な笑みを浮かべルイスをちらりと見て歩みを続ける。
「君は生き残るつもりなんだろう?ならその心配をしていればいい」
自分を投げ出したような口調にルイスもきつく言い聞かせるように返す。
「リーフ、ウサギ以外にもう何の未練も無いのか?向こうの世界に置いてきた者もいないのか?
その思いが強ければ強いほどウサギの束縛からは逃れられる。・・・お前の中に存在する赤髪の青年の事をお前は何とも思っていないのか?」
「・・・・・・っ!!」
彼の赤い瞳が動揺にか揺れる。今だにルイスには視える。彼の中に生きている悲しそうな遠くを見ている青年の姿は消えることなく存在している。
リーフは右目の紋様を隠すように触れて搾り出すように答えた。
「僕は彼に会いにいく資格が無い。だから答えを探しに行くんだ・・・ウサギの元に行かないと。
彼と一緒に行けない・・・。吹っ切ることもできない・・・!」
彼の苦悶する姿に唖然とし、ルイスは言葉を失った。
同時に安心した気持ちもあった。
「ルイス、僕は僕の目的のために君を使う。そして君を護る」
「お前に我の命を渡すことはできないが、我の生に意味があるなら好きに使うがいいよ。」
リーフは少し緩和した様子を見せる。ルイスは居たたまれずに視線を逸らした。
「ルイス、君はウサギを断ち切るつもりできたんじゃないのか」
「そうだ。我にしがみつく唯一の者だ。誰も我にかまうことなく、相手にもかまわせること無く生きてきた。自分を護るためにだ。
我に社会やルールは必要ないし誰にも必要とされたくは無い。しかしあれはいつまでも我を探す。あれも初めてだったのかもしれんが。
今は我を探し、息を止めるために他のpielloを殺戮するウサギだ」
風の噂は耳に痛いほど伝わってきていた。ルイスが逃げ出してから少しして向こうを拠点と置く同僚達がルイスの元に尋ねてきたことがあった。その時、ルイスのウサギはpielloを殺戮し回っていたらしい。それから城に幽閉され、音沙汰も無かったはずだった。
しかし最近また起こっていると聞き、ルイスも重い腰を上げたのだ。
「pielloの死体を晒す事は向こう側の人間に存在を示すことになる。それは暗黙のルールを破ることになってしまう。
それだけは避けなければいけない」
「ルイスは向こうの人間のために動くのか?」
不思議そうに彼が問い掛けてくる。ルイスは微笑み、向こうでの生活を思って胸を押さえる。彼らの姿は酷く胸を打ち、ルイスに「想い」を抱かせてくれうr。
「言わなかったか?我を変えたのは向こうの人間達だ。彼らを愛している。
均衡を守ること。それが我の願いだ」
「見返りなんて考えないんだね・・・」
「我は・・・そうする事ができるほど強くは無い」
誰か特別な人を作ろうという想いを抱ける者を強いと思う。ルイスはこの身を誰かに預けることさえできない。畏怖、嫌悪、不信にまみれた自分だからこそ人間に焦がれる。
そしてリリエッタやリーフのようなまっすぐな者を眩しく愛おしく思うのかもしれない。
「我に誰も関わってほしくは無い。我からは何も渡せないからな。お前にも知識しか預けることはできない」
「いいよ。僕は僕で好きにする。君もいい加減、自分の為に生きてみたらいいのに」
目を見開き、彼を凝視する。
おかしい事をいっただろうかと人形のpielloは歩みを止めず振り向く。
「若造にまでも言われるか・・・。リーフ、お前の言うとおりだ」
「ルイス、立ち止まる暇はない。分かっているだろう?此処まできたら愚痴も悩みも言っても仕方ないんだ。ならば一緒に行こう」
愉しそうに先を見据えている彼にルイスは苦笑し、頷く。
(そうだな。お前とならあの先に辿り付けるのかも知れない)
いつまでも渋っていたのはルイスの方だった。覚悟が足りないままだった。けれど向かう先に一人で行くわけではない。それだけでも心強い。
前方に光の漏れる場所がある。
扉は開いているが先は見えない。ルイスはそこに向かって力を放つ。
神々しい程の光が生まれる。四方に飛び散ったかと思えば線状に飛び交い、それは扉ごと内部を破壊し焼き尽くした。
「ルイス、戦闘向きなんだな・・・」
つれてくるならもっと大事に扱え。
放り出されてそのまま床で伸びていたら彼の気配は消えていった。
見覚えのある城内に本気で死にたくなって倒れたままでいたら、意識を取り戻したらしいリーフが立ち上がったのが見えた。
そしてこちらに手を伸ばしてくる。
「・・・大丈夫だ。ただ少し毒に中ったようなものだから」
やんわりと断り、嘔吐を抑えるためにも目を閉じてやりすごす。
彼の気配が和らいだのはリーフの風のおかげだったことを思い出す。そのおかげでもうすぐ立つことができそうだった。薄目を開けて彼に小さく呟いた。
「ありがとう。・・・助かった」
難儀な身体。この身体がなかったら生きることはできなかった。リーフは長く伸ばしている三つ編みを払い、服を叩きながらこちらを不思議そうに見下ろす。
「一緒に来てもらわないといけないからね。君に倒れられても困る」
「・・・そうだな」
ルイスも立ち上がり、側に落ちていた傘を拾ってリーフをまっすぐ見つめなおす。
あの時、その言葉のとおりにルイスを打算的に見ており、行動したのならばリーフは此処まで来る事はできなかったことに気付いているだろうか。触れた瞬間、彼を切り刻んでいるのはルイスの手だったはずだった。
彼は見た目通りのpielloではなくお節介な面を持っているようだった。
(だからこそあのウサギと上手くやってきたのかもしれないな)
「何故、微笑んでいるんだ?」
問われて自分の表情に気付き、口元に触れる。笑っていたことに気付かないほど無意識に行っていたらしい。
「・・・なんでもない。気にするな」
真実の言葉は彼を変えてしまうとルイスは思う。変わった結果が今の彼なら今のままで彼らに会いに行ってほしいと思う。それがルイスを護る武器となる。この静まり返った廃城で敵味方分からない中でお互いさえも状況が変われば敵になるだろう状況で、ルイスの唯一の味方は彼の情だった。
(これほど不確定なものは無い)
彼が「彼」を引きずり出すことができればルイスの願いは叶えられる。
リーフの後ろを歩きながら、暗く灯りさえも遠い廊下を歩いていく。喋ることなく黙々とリーフは進んでいく。道を間違っているわけではないので言うこともない。
なんとなく分かるものなのかもしれない。リーフにとっては回帰となるのだろうから。
「・・・リーフ、お前はこの騒動が終わればどうする?」
「・・・・答えは着いてから決める」
リーフの返事はそっけない。彼の額に脂汗が浮いているのがわかった。よく見ると身体の動きがおかしかった。まるで人形のような動き方をしている。
「お前、身体は辛くないの?」
「身体を定期的に休めないといけないところを無理してるから。生命に支障は無いけど、人の振りをすることが難しくなるのは本当のようだ」
不自然な動きにルイスは横から支えようとして逆に距離を取られた。不敵な笑みを浮かべルイスをちらりと見て歩みを続ける。
「君は生き残るつもりなんだろう?ならその心配をしていればいい」
自分を投げ出したような口調にルイスもきつく言い聞かせるように返す。
「リーフ、ウサギ以外にもう何の未練も無いのか?向こうの世界に置いてきた者もいないのか?
その思いが強ければ強いほどウサギの束縛からは逃れられる。・・・お前の中に存在する赤髪の青年の事をお前は何とも思っていないのか?」
「・・・・・・っ!!」
彼の赤い瞳が動揺にか揺れる。今だにルイスには視える。彼の中に生きている悲しそうな遠くを見ている青年の姿は消えることなく存在している。
リーフは右目の紋様を隠すように触れて搾り出すように答えた。
「僕は彼に会いにいく資格が無い。だから答えを探しに行くんだ・・・ウサギの元に行かないと。
彼と一緒に行けない・・・。吹っ切ることもできない・・・!」
彼の苦悶する姿に唖然とし、ルイスは言葉を失った。
同時に安心した気持ちもあった。
「ルイス、僕は僕の目的のために君を使う。そして君を護る」
「お前に我の命を渡すことはできないが、我の生に意味があるなら好きに使うがいいよ。」
リーフは少し緩和した様子を見せる。ルイスは居たたまれずに視線を逸らした。
「ルイス、君はウサギを断ち切るつもりできたんじゃないのか」
「そうだ。我にしがみつく唯一の者だ。誰も我にかまうことなく、相手にもかまわせること無く生きてきた。自分を護るためにだ。
我に社会やルールは必要ないし誰にも必要とされたくは無い。しかしあれはいつまでも我を探す。あれも初めてだったのかもしれんが。
今は我を探し、息を止めるために他のpielloを殺戮するウサギだ」
風の噂は耳に痛いほど伝わってきていた。ルイスが逃げ出してから少しして向こうを拠点と置く同僚達がルイスの元に尋ねてきたことがあった。その時、ルイスのウサギはpielloを殺戮し回っていたらしい。それから城に幽閉され、音沙汰も無かったはずだった。
しかし最近また起こっていると聞き、ルイスも重い腰を上げたのだ。
「pielloの死体を晒す事は向こう側の人間に存在を示すことになる。それは暗黙のルールを破ることになってしまう。
それだけは避けなければいけない」
「ルイスは向こうの人間のために動くのか?」
不思議そうに彼が問い掛けてくる。ルイスは微笑み、向こうでの生活を思って胸を押さえる。彼らの姿は酷く胸を打ち、ルイスに「想い」を抱かせてくれうr。
「言わなかったか?我を変えたのは向こうの人間達だ。彼らを愛している。
均衡を守ること。それが我の願いだ」
「見返りなんて考えないんだね・・・」
「我は・・・そうする事ができるほど強くは無い」
誰か特別な人を作ろうという想いを抱ける者を強いと思う。ルイスはこの身を誰かに預けることさえできない。畏怖、嫌悪、不信にまみれた自分だからこそ人間に焦がれる。
そしてリリエッタやリーフのようなまっすぐな者を眩しく愛おしく思うのかもしれない。
「我に誰も関わってほしくは無い。我からは何も渡せないからな。お前にも知識しか預けることはできない」
「いいよ。僕は僕で好きにする。君もいい加減、自分の為に生きてみたらいいのに」
目を見開き、彼を凝視する。
おかしい事をいっただろうかと人形のpielloは歩みを止めず振り向く。
「若造にまでも言われるか・・・。リーフ、お前の言うとおりだ」
「ルイス、立ち止まる暇はない。分かっているだろう?此処まできたら愚痴も悩みも言っても仕方ないんだ。ならば一緒に行こう」
愉しそうに先を見据えている彼にルイスは苦笑し、頷く。
(そうだな。お前とならあの先に辿り付けるのかも知れない)
いつまでも渋っていたのはルイスの方だった。覚悟が足りないままだった。けれど向かう先に一人で行くわけではない。それだけでも心強い。
前方に光の漏れる場所がある。
扉は開いているが先は見えない。ルイスはそこに向かって力を放つ。
神々しい程の光が生まれる。四方に飛び散ったかと思えば線状に飛び交い、それは扉ごと内部を破壊し焼き尽くした。
「ルイス、戦闘向きなんだな・・・」
作品名:laughingstock9-3 作家名:三月いち