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laughingstockーroi2-

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「くそ!誰か!!誰か手を貸してくれ!!」

引き摺られそうな身体を必死で引きとめて、ロイの腕を離さずに叫んだ。彼から手を離す事が出来なかった。迷う彼の背を押すことにままならない。
しかし、この状況では助けを呼んでも皆、自分のことで手一杯なのだ。

それでもこの手は離せなかった。

だが、ゆっくりと光の方へ身体が引き摺られていく。これでは二人とも共倒れとなると思った。
止める力は働かない。ただ、ロイと共に光の中へ向うしかなかった。

掴んだ腕は決して外さずに。









一瞬意識を失っていたらしい。
光に呑まれながら、彼の力が干渉しなかったのは人形だったからだろうか。辿り着いた先はガラクタ置き場ではなく、本当の意味で彼の世界だった。
向こうの世界と同じ空気でまったく違うシオンの世界。そこでシオンを見た。

ウサギの姿をしていたのだろうたくさんのシオンがいた。彼らは顔を合わせ、ああでもない、こうでもないと話している。その傍で同じ顔のシオンがもう一人のシオンを壊していた。
此処に吸収された記憶などが集まり、統合しようとしているのだろうか。

あまりに馬鹿らしく、無謀なことだった。

その中に、一人だけ見たことのあるシオンがいた。あれは、おそらくリーフの『シオン』だろう。
生まれてすぐに消えた彼は此処にいたのか。
違う。ずっと傍にいたのに気付かなかっただけだった。

「・・・そうか。僕の名も無きウサギが君だったんだね。シオン」

そう問いかけるとシオンは、何故?と口だけ動かした。

名も無きウサギは此処へリーフを連れてきたくはなかったのだろう。だからこそ一人で此処へ戻った。彼はそういう人格を持っていたから。
これはリーフの裏切り行為だ。そして自分のウサギを敵に回した瞬間だった。
彼の表情がぐにゃりと歪む。ウサギが牙を剥く瞬間をこの目で見るとはリーフ自身でも想像もつかなかった。だから

「ごめん」

ずっと傍にいたからこそ。必要としてきたからこそ。リーフが終わらせるしがらみだった。

(もう、起こしてもらえない。一緒に向こうに行くことも無い。・・・願いを僕が叶えることも無い)

「ごめん・・・」

もう見たくはなくて、眼を閉じる。
しかし彼から与えられたのは、髪を撫でる暖かい手だった。眼を開くと、優しい眼で見つめる彼が一人。

「約束を、どうか果たしてほしい。私の子」

生まれてすぐの時の記憶が一気に蘇る。

あの風景は、一体どこなのか。懐かしく黄金色の畑の傍の館に二人でいて、何も答えない何も食べない何もしないリーフの世話を甲斐甲斐しくしていた彼との生活。
何の感情も生まれていなかったあの頃、彼が何をしようとも興味が生まれなかった。
でも彼は野菜が収穫されるとリーフによく見せた。いろんなものを見せ、空の移り変わりなどを教えていた気がする。

いつか、彼が夜魘される様になって、昼間起きることが少なくなってからウサギの人形を持ってきた。
それを抱いて離さなかったリーフに彼は苦笑した。

そんなリーフをウサギごと抱きしめて、彼は謝ったのだ。

人形のリーフに何度も謝ったのだ。

あの頃からようやく彼を、リーフは「人」と認めたのだ。

しかし、彼は自分が消えることを知っていて、リーフに最期の願いを伝えた。

『いつか』

「やくそく・・・」

『僕に会ったら』

「やく・・・そく」

『もういいんだと言ってあげて欲しい』

思い出した瞬間、言えないと思った。
人形に涙はない。
胸が痛むことはない。
こんな滑稽なことはない。
ないはずなのに。

「・・・できない・・・」

そう、ようやく呟いたとき、自分の父は何所にもいなかった。
傍にいたのは鷹の紋様を持つウサギ。
いや、ウサギだったものだ。今は父の姿をしている。
その傍にはロイ。

「ロイ・・・?」

「父の願いだ」
「その通りだ。我が子よ」

シオンの心底嬉しそうな声にシオン達が振り向く。彼に嫌悪を表わす者、憧憬の視線を向ける者、怯える者など多くの反応を取っていた。
まったく一つに統一しないこんな世界を彼は一つにしようとしていたと思うとやはり無謀だとリーフは思った。

「何千年も繰り返すことでこんなに自分を造り上げていったんだろうな」
「リーフ、共に父の悲願を果たそう。それが我ら子にできることなんだ」

ロイはそういってリーフの腕を取る。そのまま父の方へ引き寄せた。

「え・・・?」

リーフが不思議に思って彼を見る。彼は何も言わずにその手を自分の胸へのめり込ませた。
音を立てて沈んでいく自分の片腕を見つめる。おかしい現象に危険だと頭の中で警鐘が鳴る。しかしもう手遅れだと知ったのは一瞬後だった。

「ぇ・・・・ぅあああああああああああ!!!!!」

しゃがみ込もうとして腕がぴくりとも動かないことを知る。

うばわれるうばわれるうばわれるうばわれる。

今までリーフを形造っていたものを彼に奪われる。飲み込まれていく。
ウサギと会って、数百年という時間を共に歩んで、誰に会った。

初めての恐怖だった。
それでも奪われる感触に腕を引き抜こうと力を入れるがどうにもならない。その姿をロイがじっと見つめている。
彼に視線を向けて震える声を上げる。

「これで・・・満足か?ロイ・・・」
「・・・」

その問いにロイは戸惑っているようだった。彼の中にはまだ揺らぎがある。
そう思えた。
しかし、リーフは自分の思考が働くなってきていることから逃れるように頭を振る。何故これ程、生に執着し始めた?分からない。

でも、わからなくてもそれがリーフの「意志」だったから。

「ロイ、こうすることで父は満たされない・・・満たされることはないんだ・・・!!人を身体に取り込める人が欠落した僕らで埋められるわけがない!!」
「ならば、何を選べば良かったんだ?リーフ」

見上げた先にはロイの困惑した表情。子供のような表情。
彼に自由なもう片方の手を伸ばす。

「記憶さえも消えていく自分の中で確かなものが見つけられなかったこの時間に、何を選べば良かったというのか・・・?」
「嘘だ・・・見つけられなかったわけがない。忘れることに抗わなかっただけだ・・・・。僕だって何の感傷も記憶に残らない・・・・それでも、その時の想いを忘れたくなかった。
 忘れるわけにはいかなかった」

もう覚えてないけれど、リーフは行かなければ、帰らなければいけないと思っていたはずだ。シオンの顔を見ると、彼もまた不思議な表情をしている。

「何故だ?何故・・・お前の中に私以外の人間の記憶が残っている?そんなことは有り得ない」

抜けない腕。そろそろ痺れてきた頭で彼の言いたい事を噛み砕こうとする。もう、何を言っているかよく分からなかった。

「ロイ、お前もなのか?お前もこうして私以外の記憶を持ち、帰ってきているのか!?」

歓喜の声。その声にロイが後ずさる。ロイは黙って視線を逸らし、手を強く握りしめていた。その様子にシオンは理解したらしく、失望の声を上げる。

「お前はできそこないだったか!?せっかく此処まで連れてきてやったというのにただの木偶の坊だったというのか!!」
作品名:laughingstockーroi2- 作家名:三月いち