laughingstockーroi-
ロイと共に連れてこられた場所は拠点としていた廃城だった。周囲を見渡すが見たことのない場所だったため黙って歩き出すロイの後ろをついていく。
一つ二つと部屋を通り過ぎていくが、一向に目的地には着かないようだった。
「ロイ・・・、どこまで行くつもりなんだ」
「俺達の父の元だ。もうすぐ着く」
言われたとおり、前方に光の漏れる場所がある。
扉は開いているが先は見えない。ロイは迷わずその中へ入っていく。彼の姿が眩い光の中見えない。腕で庇いながら彼の後をとりあえず着いていく。
その先には沢山のpielloの姿があった。此処から出ようともがいた者もいたのかもしれない。倒れているものもいる。
膝を抱えたまま動かない者、誰もに生気は無く静寂に包まれていた。ここが見知った城ではないのではないかと思う。自分達はこんな場所を知らずに生活をしていたというのか。
「此処は・・・」
ロイはそれらに構うことなく歩いていく。
「ガラクタ置き場と言われている所だ。ここでpielloは生まれ壊される。人間pielloは此処で創られる。
・・・本当に覚えていないんだな。リーフ」
リーフにはまったく見覚えは無かった。リーフたちは此処で作られたわけではないのか。此処で創り直されるのは人間ではない存在。死屍累々という言葉が当てはまるような状況にふと記憶にあるような気がした。
確かベナ公爵の館のpiello達が同じ状況となっていなかったか。
「全員、君が連れてきたのか・・・?ロイ。ウサギと引き離して、この場所に」
「それが俺の今の仕事だ。彼に殉じる統合と再生のために」
どう見ても正しいことには見えない。こうまでしてロイがその彼に従う理由もリーフには分からなかった。
彼らに触れないように避けながらロイに続く。
部屋の向こう側に扉があった。
ロイはその扉の前に立ち、リーフを見た。
「この先に俺達の父がいる。・・・リーフ、行っても構わないな?」
「何故僕に聞くんだ?此処にいる彼らには聞きもしなかったんだろう?」
そう問い返すと、無表情だったロイが返答に窮した。
一瞬口を開きかけてやめる。ただ、じっとリーフを見てきた。
「・・・お前があの人を覚えていないからだ」
「・・・え」
「俺とお前は本当の意味で兄弟だ。他にいない同じ物だ。・・・同じ志を持っていると思っていた。
今は少し混乱している。お前が真実を知っても何も変わらなかった。何故だ」
「僕はこんな事をその彼が望んでいるとは思えないからだ。本当に望んでいるなら僕は彼を止めに行く。
僕を創ったというならそれが僕のできることだ。
こんな事の手助けなんて死んでも御免だ。今ならはっきりと言える」
「・・・。彼を覚えていないだけでこれ程違うとは思っていなかった。・・・だが、何故お前の父はお前に此の事を教えなかったのだろうとずっと考えている」
「望んでいなかったからだろう。簡単な話だ。」
「お前が忘れてしまっているわけじゃないんだな」
「・・・・」
ロイに伝える気はなぜか起こらなかった。彼のほんの少し小さな声で零した言葉を覚えていることは。
彼が躊躇している間にリーフが扉を押して開く。
「リーフ」
彼の言葉を聞かずにそのまま中に入る。
そこは暗く、狭い玄室のような場所。リーフの眠る硝子柩が置かれている場所のようだった。
青い光が中心に漏れている。その中心は眩い光に包まれてよく見えない。深い穴のようなものなのかもしれない。
「・・・ルイス」
「リーフ、何故此処に・・・」
髪を揃え、性別さえも不確定な美しいpiello。いつものように傘を持っており、特に何かしたという様子は無い。
「ルイス、君も呼ばれたのか・・・?」
「呼ばれた・・・。そうなのかもしれないな。自分のウサギを片付けにきたまでだ。お前こそ・・・何故あの者と」
「俺が連れてきた」
「ロイ・・・まさか僕を尾けてきていたのか」
彼は答えない。それは肯定と取られるものだった。此処へ戻らないように身を隠していた彼さえも巻き込んだのはリーフの責任だった。一瞬の怒りに身を任せて彼を殴る。
ロイほどの力は無くても彼をよろけさせる事ぐらいはできたようだった。
「・・・君がそこまで堕ちているとは思わなかった」
「リーフ」
「あの人が呼んだのか・・・?」
「リーフ、何を怒っている。我は我の事情で此処にいる。お前達が気に病むことではない」
ルイスは笑って、ロイを見上げる。リーフよりも背丈はあるがロイほどは無い小柄なルイスはじっと彼を見ていた。
「許してやるといい。この男もお前と同じ失くしていく運命を背負わされている。・・・お前とどちらが惨いのかは我にはわからぬ。
我はお前にも謝らなければ。その能力は苦しいだろう?」
「・・・・っ!!!」
ロイが動揺したように身を引く。ルイスは口元に笑みを浮かべた人を喰った笑みを浮かべる。
冷たくどこまでも見下ろしつくすような瞳を彼に突きつける。
「シオンに依存するのは無理もないか?お前の消えない記憶だからな。しかしそれはお前が流されているだけだな。いくら依頼人を解剖したとして力を加えたとしてお前の記憶の糧とはならない。
抗いもせずに自分を正当化するではないよ」
ロイが強く彼を睨み付ける。そして右手から力を溜めようとしているのが分かった。リーフがルイスに知らせようとしたとき、彼の手から光が掻き消えた。
そんな経験は無かったのだろう。ロイ自身も驚き、その手を見つめている。
「少しは力があるようだ。正面から当たれば我もひとたまりもなかった・・・が、経験が違うぞ若造」
ルイスが何かしたような素振りは見えなかった。彼は指先一つも動かしていない。意志の力が干渉したようにも見える。
「遊楽の旅を伊達にしていたわけではないのでな。若造、相手を間違えるな。
勝てない相手に喧嘩を売って屈服させるのは賢い方法ではないぞ」
「・・・流石はあの方から逃げ出したpielloか・・・」
「そうだ。お前が想うあの壊れた男に会いに我が直々に来た。・・・リーフ」
ルイスに呼ばれて近付くと彼にロイの方に押された。
そのままロイに抱きとめられる。
「・・・賢くしたたかなお前が見捨てず引き摺りあげてやれ。馬鹿ではなかったら自力で這い上がってくるだろうよ。
お前達への罪の贖いはあの父の足止めと道を変える手助けくらいしかできないが」
「ルイス、君の言葉は抽象的過ぎる」
そう愚痴るとルイスは「わざとだ」と愉しそうに笑った。
彼は全てを見通す力を持っているのかもしれないが、そう笑うと見た目相応の幼さが見られる。
化粧の下に隠されているのは彼の柔らかい心なのだろうかとほんの少しだけ思えた。
ルイスの瞳はすぐ真剣味を帯び、まっすぐに釘付けになったまま一点に向かっている。
リーフもそちらに向くと、先ほど意志の欠片もなかったpiello達がふらふらと青い光に歩き向かっていた。恍惚とした表情で、あるいは喜びに満ちた表情で。何かを呟きながら向かう者もいる。
心ごと捕らわれたような彼らの視線の先には彼らの相棒だったであろうウサギの姿があった。
いやウサギの姿をしていた人間というべきか。
一つ二つと部屋を通り過ぎていくが、一向に目的地には着かないようだった。
「ロイ・・・、どこまで行くつもりなんだ」
「俺達の父の元だ。もうすぐ着く」
言われたとおり、前方に光の漏れる場所がある。
扉は開いているが先は見えない。ロイは迷わずその中へ入っていく。彼の姿が眩い光の中見えない。腕で庇いながら彼の後をとりあえず着いていく。
その先には沢山のpielloの姿があった。此処から出ようともがいた者もいたのかもしれない。倒れているものもいる。
膝を抱えたまま動かない者、誰もに生気は無く静寂に包まれていた。ここが見知った城ではないのではないかと思う。自分達はこんな場所を知らずに生活をしていたというのか。
「此処は・・・」
ロイはそれらに構うことなく歩いていく。
「ガラクタ置き場と言われている所だ。ここでpielloは生まれ壊される。人間pielloは此処で創られる。
・・・本当に覚えていないんだな。リーフ」
リーフにはまったく見覚えは無かった。リーフたちは此処で作られたわけではないのか。此処で創り直されるのは人間ではない存在。死屍累々という言葉が当てはまるような状況にふと記憶にあるような気がした。
確かベナ公爵の館のpiello達が同じ状況となっていなかったか。
「全員、君が連れてきたのか・・・?ロイ。ウサギと引き離して、この場所に」
「それが俺の今の仕事だ。彼に殉じる統合と再生のために」
どう見ても正しいことには見えない。こうまでしてロイがその彼に従う理由もリーフには分からなかった。
彼らに触れないように避けながらロイに続く。
部屋の向こう側に扉があった。
ロイはその扉の前に立ち、リーフを見た。
「この先に俺達の父がいる。・・・リーフ、行っても構わないな?」
「何故僕に聞くんだ?此処にいる彼らには聞きもしなかったんだろう?」
そう問い返すと、無表情だったロイが返答に窮した。
一瞬口を開きかけてやめる。ただ、じっとリーフを見てきた。
「・・・お前があの人を覚えていないからだ」
「・・・え」
「俺とお前は本当の意味で兄弟だ。他にいない同じ物だ。・・・同じ志を持っていると思っていた。
今は少し混乱している。お前が真実を知っても何も変わらなかった。何故だ」
「僕はこんな事をその彼が望んでいるとは思えないからだ。本当に望んでいるなら僕は彼を止めに行く。
僕を創ったというならそれが僕のできることだ。
こんな事の手助けなんて死んでも御免だ。今ならはっきりと言える」
「・・・。彼を覚えていないだけでこれ程違うとは思っていなかった。・・・だが、何故お前の父はお前に此の事を教えなかったのだろうとずっと考えている」
「望んでいなかったからだろう。簡単な話だ。」
「お前が忘れてしまっているわけじゃないんだな」
「・・・・」
ロイに伝える気はなぜか起こらなかった。彼のほんの少し小さな声で零した言葉を覚えていることは。
彼が躊躇している間にリーフが扉を押して開く。
「リーフ」
彼の言葉を聞かずにそのまま中に入る。
そこは暗く、狭い玄室のような場所。リーフの眠る硝子柩が置かれている場所のようだった。
青い光が中心に漏れている。その中心は眩い光に包まれてよく見えない。深い穴のようなものなのかもしれない。
「・・・ルイス」
「リーフ、何故此処に・・・」
髪を揃え、性別さえも不確定な美しいpiello。いつものように傘を持っており、特に何かしたという様子は無い。
「ルイス、君も呼ばれたのか・・・?」
「呼ばれた・・・。そうなのかもしれないな。自分のウサギを片付けにきたまでだ。お前こそ・・・何故あの者と」
「俺が連れてきた」
「ロイ・・・まさか僕を尾けてきていたのか」
彼は答えない。それは肯定と取られるものだった。此処へ戻らないように身を隠していた彼さえも巻き込んだのはリーフの責任だった。一瞬の怒りに身を任せて彼を殴る。
ロイほどの力は無くても彼をよろけさせる事ぐらいはできたようだった。
「・・・君がそこまで堕ちているとは思わなかった」
「リーフ」
「あの人が呼んだのか・・・?」
「リーフ、何を怒っている。我は我の事情で此処にいる。お前達が気に病むことではない」
ルイスは笑って、ロイを見上げる。リーフよりも背丈はあるがロイほどは無い小柄なルイスはじっと彼を見ていた。
「許してやるといい。この男もお前と同じ失くしていく運命を背負わされている。・・・お前とどちらが惨いのかは我にはわからぬ。
我はお前にも謝らなければ。その能力は苦しいだろう?」
「・・・・っ!!!」
ロイが動揺したように身を引く。ルイスは口元に笑みを浮かべた人を喰った笑みを浮かべる。
冷たくどこまでも見下ろしつくすような瞳を彼に突きつける。
「シオンに依存するのは無理もないか?お前の消えない記憶だからな。しかしそれはお前が流されているだけだな。いくら依頼人を解剖したとして力を加えたとしてお前の記憶の糧とはならない。
抗いもせずに自分を正当化するではないよ」
ロイが強く彼を睨み付ける。そして右手から力を溜めようとしているのが分かった。リーフがルイスに知らせようとしたとき、彼の手から光が掻き消えた。
そんな経験は無かったのだろう。ロイ自身も驚き、その手を見つめている。
「少しは力があるようだ。正面から当たれば我もひとたまりもなかった・・・が、経験が違うぞ若造」
ルイスが何かしたような素振りは見えなかった。彼は指先一つも動かしていない。意志の力が干渉したようにも見える。
「遊楽の旅を伊達にしていたわけではないのでな。若造、相手を間違えるな。
勝てない相手に喧嘩を売って屈服させるのは賢い方法ではないぞ」
「・・・流石はあの方から逃げ出したpielloか・・・」
「そうだ。お前が想うあの壊れた男に会いに我が直々に来た。・・・リーフ」
ルイスに呼ばれて近付くと彼にロイの方に押された。
そのままロイに抱きとめられる。
「・・・賢くしたたかなお前が見捨てず引き摺りあげてやれ。馬鹿ではなかったら自力で這い上がってくるだろうよ。
お前達への罪の贖いはあの父の足止めと道を変える手助けくらいしかできないが」
「ルイス、君の言葉は抽象的過ぎる」
そう愚痴るとルイスは「わざとだ」と愉しそうに笑った。
彼は全てを見通す力を持っているのかもしれないが、そう笑うと見た目相応の幼さが見られる。
化粧の下に隠されているのは彼の柔らかい心なのだろうかとほんの少しだけ思えた。
ルイスの瞳はすぐ真剣味を帯び、まっすぐに釘付けになったまま一点に向かっている。
リーフもそちらに向くと、先ほど意志の欠片もなかったpiello達がふらふらと青い光に歩き向かっていた。恍惚とした表情で、あるいは喜びに満ちた表情で。何かを呟きながら向かう者もいる。
心ごと捕らわれたような彼らの視線の先には彼らの相棒だったであろうウサギの姿があった。
いやウサギの姿をしていた人間というべきか。
作品名:laughingstockーroi- 作家名:三月いち