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laughingstock8-2

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 リーフは苛立ちのまま、力をウサギにぶつける。そのままウサギの身体は壁まで飛び、反動で崩れた壁の中に埋もれる。

「ルイス!」

 彼の手を取って走ろうとして、躊躇する。彼の身体は一瞬強張ったからだった。そのまま手は取らず、部屋から出て走り出す。走りながらそのまま名も無きウサギに声を飛ばす。

「名も無きウサギ、ルイスを頼む。後で合流する。ルイス、いいかい?」
「この状況では仕方ない。」

 彼は嘆息して厭そうにそれでも満更でもない様にリーフのウサギに傘の先を向ける。ウサギがその先を掴むとそのまま姿を消す。名も無きウサギが空間を飛ぶ前の磁場を使ってリーフも無理矢理空間を飛ぶ。そうしないと空間を飛ぶ能力は無いのだ。
 自分が強く望んだ場所に飛ぶようにそのまま身体を丸める。身体が悲鳴を上がるのを聞きながらリーフは目を閉じた。



 世界の意向が変わりつつある。教会の権力は地に墜ちた。

 そうなるであろうとずっと提言し続けたのはシェロだった。教皇と国王の争いが激化し、貴族達と司教の暗黒時代があったことからこの結果は見えていたともいえる。
 それを伝え続けた事が仇になったのだろう。シェロがこの状態を招いたとその他司教に咎められることになった。
 責任の押し付け合いの結果がシェロに向かっただけの事だった。シェロ自身はそれもまた、想像の範疇の事だった。
 大司教は重々しく、哀みを含むようにシェロに選択を示した。

「お前が何かしたわけではない。賢者よ。時代がそうしたのだ。そしてその若さこそがお前の言葉に信憑性を生まなかった。
 
真実を伝え続けていたのに誰一人として声に耳を貸すことがなかったのだ」

「ええ。知っています」
 大司教はシェロを拾い育ててくれた老司教のかつての友であった。シェロの事情を知らず、孫のように可愛がってくれたように思う。感謝すべき人だった。
 彼の口から聞けた事がほんの少しの救いというように他の者が図ってくれたのかもしれない。
 大司教はシェロの眼鏡を取り除き、痛ましそうに表情を歪める。

「まだ20歳にもならぬ子どもに無体なことを・・・」
 シェロは彼の頬に手で触れ、そのまま信頼と感謝の接吻を落とす。

「ありがとうございます。私の道は決まっていますから、自分で選びましたから大司教、貴方がそれ程までに心痛める事はないのです」
「私は友に合わせる顔がないな・・・。お前は出来すぎたのだよ。もっと大人を頼っても良かったのだ」

 それを出来るほど安易な生まれではないシェロには苦笑を返すしかなかった。

「ディー様達にはずっと助けていただきました。そして司教様たちにも。修道士風情の私には勿体無い環境でした」
「お前の能力が買われた結果だろう?」
「それももう、私には意味のない事です」

 やんわりと穏やかにもう無くなった階級の話を遮り、シェロは真っ直ぐ彼を見据える。

「破門になる前に私は巡礼の旅へ出ます。それこそが惑わし闇を招いたという教会への償い、私なりの神への信仰とさせていただきたい」
 
巡礼に出る。それは聖なる地へ、神の恩恵を得るという確固とした願いを抱いて旅立つことや神の意に従って自らの信仰を確認・表明することをいった。目的地も方法も最終的に個人が選ぶことができるにも関わらず、死者が天国に自らの場を確保するための補完的な手段だった。
 その扉が、巡礼しないまま死んだ者にも開かれているとしても、である。

「・・・シェロ、すまない」
「これは私が選んだ道。・・・・別れが辛くなりますので、大司教私はそろそろ・・・参ります」
 
優しい人だった。もう会う事はないだろうと思い、シェロは眼を伏せる。
 彼の力の抜けた手からそっと眼鏡を取り戻して掛け直す。振り向かないまま自分の居室に向かった。

続く。
作品名:laughingstock8-2 作家名:三月いち