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laughingstock7-3

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7章3 a colleague


 日常に戻ること。
 それがこれ程恐ろしいものだとは思わなかった。

 厳かな声が自分を呼ぶ。伏せていた顔を上げ、年老いた彼らに言葉を探す。
 教皇は国王との激化する権利争いしか目に見えていない。
 教皇をあらゆる国王の上に君臨する、霊的かつ現世的至上者として描き、モナシスム(修道院制度)を造ったこの国。

「逃亡者、異端審問の不評、異端修道士会の存在、このままでは教会の衰退は目に見えて大きくなるでしょう。」

 キアラは普通の仕事に戻ったが、いつものギルドがざわつき浮き足立っていた。此処で仕事するチェレッタさえも落ち着かない様子だった。

(仕方が無い・・・ことだな)
 
piello達が何も知らずに仕事をしているとしても、まさかこんな事態になるとは殆どの者は思っていなかっただろう。
 ウサギとpielloの関係は絶対。不仲であろうとなかろうとお互いの信頼は絶対。
 そのウサギがpielloに牙を剥くなど考えもしなかったことだろう。
 前回の異例の召集はこの事をpiello達に伝えた。
 ウサギは何百年もこの城に幽閉されていたらしい。しかし逃亡を図り今では行方不明となっている。何人もの相棒のpielloを殺したウサギらしい。
 彼が何を考えて動いているかは分からない。そのウサギを見つけたら捕獲する事と十分に気をつけることだけ伝え、上層部は姿を消したがpiello達の動揺は広がった。今もそれは続いている。彼らは自分達の相棒に不信感を抱いている。
 キアラは元々自分のウサギと行動を殆ど共にしようとしていない。以前と同じように振舞うだけだった。ロイは特に変わりがなく、話が終わってすぐ仕事にいなくなった。
 だが、その場にいなかった仲間が帰ってきてから、彼らの様子がおかしかった。
 エレナは茫然自失といった状態でパパスにしがみ付いて、周囲に眼を向けもしなかった。今も仕事に行っているのかこの城にいるのか分からない。ギルドには顔を出していないとチェレッタは言っていた。
 そしてリーフ。
 エレナのだいぶ後に帰ってきたが、仕事を終わらせてきたらしい。その表情を見てキアラは驚いた。
 彼がそんな表情をすることはなかったからだ。
 キアラが驚くほどに真っ青な表情で彼はウサギと共に戻ってきた。
 二人とも召集に応じる事ができなかった理由は分からない。ただ二人ともウサギの事を知らない。早く伝えてやらなければと思うが彼らの居場所は分からない。

「・・・やってられねぇな・・・。何か始まるのか・・・」

 頭を掻いて独り言を呟くとチェレッタが目の前で手を振っていた。

「・・・どうした?」
「キアラ、外も大変な事になってるぜ・・・?この依頼、やらねぇか」
「・・・?」

 チェレッタは一枚の紙を大事そうに握り締めて顔を歪めた。

「・・・こっちの世界とむこうの世界の間に歪でもできたみてぇだ・・・。こっちで不思議な事が起こると向こうにも起こる。いや、向こうの方は・・・予兆が合ったんだけどよ。
 それを知っている人間は少なかった。・・・だがタイミングが良すぎるんだよな・・・誰かが動いてたみてぇによ」

「チェレッタ。俺でいいならやるぞ」

 彼には普段から世話になっている。贔屓もしてくれる彼がここまで不安になる事に対して情報屋として疑問を持っているようだった。キアラはチェレッタの手から紙を抜き取る。
 チェレッタは礼を言って城の扉の向こうを指す。

「piello収集家にエレナは捕まってたらしい。それを助けたのはリーフらしいぜ。その時何があったかはしらねぇ・・・。
 あいつらはあいつらで何かに首突っ込んじまったのかもな」

 チェレッタの淡白な様子に不思議な違和感を感じた。pielloのような表情をいつからするようになったのか。此処にいるだけでも馴染むのかもしれないが、彼は人間の筈だった。普段の喧しく明るい彼からは想像もできない程に暗い表情だった。

(情報屋も何か勘繰っているのか・・・)

「・・・調べてみるか。お前もそのつもりで俺にこの依頼を持ってきたんだろう?」

 平静を装い、呆れて見せる。すると悪戯がばれた少年のように苦笑した。

「・・・ばれてたか。俺はpielloのことなんて殆どわかんねぇけどよ。ロイやエレナ、リーフをよろしくな。お前らよくつるむ癖に互いにかかわらねぇだろ?
 その中でもお前ならまだ、あいつら全員と「縁」が切れてないように思う。何か大変な事になっててもお前なら、駆けつけるだろ?
 ・・・・それに人間だった時の記憶があるpielloのお前は他の奴より人間味がある。信じられるんだよオレも」
「・・・お前こそ知ってたのか・・・」

 キアラは誰にも言ってはいなかったが向こうの世界で生きていた記憶がある。pielloに成り立ての時は覚えていなかったが、今は鮮明に思い出せる。
 何故此処に来てしまったのか。
 エレナは覚えていないという。他のpielloも同様だった。

(何でだろうな・・・俺だけなんだろうか)

「この目で見たわけじゃないが、人の頃の記憶を取り戻したpielloの殆どは人間世界で仕事を請けたりしてるらしいぜ。お前はいつまでも此処にいるけど」
 
チェレッタなりの気遣いなのだろう。キアラの心は動かないが純粋に嬉しいと思えた。

「向こうに戻る気はない。俺の居場所はもう向こうにはないからな」
「・・・けどな、お前は此処の住人にはないものを取り戻してる。それは本当に良い事なんだぜ」
「・・・?」
「ま。行ってきてくれよ!そうだ・・・本当はその依頼、リーフに渡そうと思ってたんだけどな、気が変わったんだ。悪く思わないでくれな」
 
首を傾げながらチェレッタの言葉にしぶしぶ頷く。そして軽く腕を上げると右目に薔薇を持つウサギが空間から現れる。

「仕事だ。行くぞ」
 
 周囲に助けを求める事ができないような治安の悪い場所の一角に息を殺すようにひっそりと人々は住み着いている。望んでこんな場所にいる訳ではない。しかしその数は最近増大した。皆、世間から身を隠すため、逃げるように集まっていた。異端審問から身を隠す者などがほんの少しの食べ物で生命を繋いで此処にいる。
 毎日のように人は死ぬ。しかし埋葬する者もおらず、目の前の川に捨てて生きる者達を優先する。
 暗い表情をした者の中で必死に絵画を描き続ける者がいた。
 それを街や村に持っていって破格の値段で売る。それを収入にしてここで隠れ住んでいる。
 少しでも売れるように金の殆どは自分の身を清潔する事と食事に費やした。
 今日もまた、筆を走らせる。

「メラニー、あんたに用だって」
 
同じ場所にいる世話焼きのおばさんの一人が面倒そうに扉を指す。それに身を縮ませて画材を全て背中に隠した。

「邪魔をする」

 そういって入ってきたのは若い男で、奇抜な服装をしていたため、メラニーは安心した。少なくともメラニーの恐れる者達ではない。茶髪の巻き毛が印象的で垂れ目だったが変なことをするつもりはないらしい。この場所に何の抵抗もなく入ってくる。
 普通ならこの不潔な場所に少しは反応するはずだった。

「貴方・・・何なの?」
作品名:laughingstock7-3 作家名:三月いち