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laughingstock6-2

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6章2 True


「やぁ今晩は」

 眠りにつこうとしていた頃だったのだろう。まどろむ中でリーフの気配に騎士は気付いたらしいが動きは鈍かった。そんな彼の上に被さるように動作を封じる事は容易であった。
 相手が如何に、身を引く素振りを見せてもリーフはただ笑って見せた。首に力を入れる事だけはやめずにできるだけ優しく話しかける。
 あの客室には鍵はかかっていなかった。リーフが出て行くことを見越すように見張りも付いていなかったため、そのまま寄宿舎に向かって顔見知りに少し「手伝って」もらう事にした。
 彼は自分の顔を見て驚愕し憎憎しげに睨み付けてきたが、リーフにとって気にする事でもない。

「突然起こして悪いと思っているよ。人は夜眠るんだろう?でも今日だけ僕に付き合ってほしいな。決定権は君に無い事は分かっているだろうけど」

 宥めるように伝えると相手は、考え込んだようだった。そしてすぐ視線で肯定を伝えてくる。それに対して良い子と褒めてやる。

「ぐっ・・・がっっ・・・」
「ああ、ごめん。これじゃ答えられないよね。レイナス」
 
苦しそうな声に掴み上げていた手を離すと、彼はごほごほと咳き込む。

「・・・っ!話す前にっ・・・殺す気か」
「さぁ?」

 それで死ぬならそれだけのものだったという事だ。わざわざ彼の元に赴いたのに特に理由がある訳ではない。深く考えずおどけて見せると相手は舌打ち一つ。

「pielloなど・・・所詮そんなものだ。俺達を嘲り嗤う」
「僕は君とそんな会話しにきたんじゃないんだ。僕は短気なんだよね。
 君を殺して他の人に聞いてもいいんだ」

(人は飽きない。そして最も消し去りたい・・・)

 そのまま上から見下ろす。
 そのまま風を彼の両腕に巻き、もう一度彼の首を左手で掴み上げる。

「ぐぅ・・・っ!!」
「これ以上は時間の無駄。・・・ベナ公爵はどこにいるか知っている?」
 
首をかすかに縦に振る。

「そう。じゃあ囚われたpielloが何処にいるかは?」

 一瞬の躊躇。そして首を縦に振る。

「良い子だ。じゃあ―」

 僕が何故此処にいるか知っている・・・?
 
他のpiello達と別格な場所に置かれて、こうやって好きに動いている。それをあの公爵が知らないわけではない。彼は自分の元依頼人だ。
 piello収集家となった今、知らない訳が無いのだ。
 彼は動きを止め、真っ直ぐリーフを見て首を横に振る。

「素直な子は好感が持てるね」

そういって話すと彼はまた咳き込み苦しそうに身体を九の字に曲げようとして、それができないことでリーフを睨む。肩を竦め、ようやく馬乗りになっていた姿勢から寝台を降りる。
 彼は身を起こし、締められていた喉を擦りながら脱いだ鎧を着込んでいく。完了するまで壁にもたれながら、寄宿舎の部屋を眺める。
 2人1組の部屋でそれこそ寝台しか置かれていない。寝るためだけに与えられた部屋。他の部屋も同じだろう。
 これが騎士の扱いだろうか。まるで傭兵風情の扱いと同様だった。
 館一つ与えるわけではない。まるで自分の雑用をこなす者への場所。
 pielloは牢に入れられていないだろう。彼らよりも自分達の方が公爵にとって価値があるものなのだ。

「・・・行くぞ。ベナ公爵はこちらだ」

 顔を上げると先刻来た姿に戻ったレイナスが扉の前で振り返っている。それに頷き、背後をついていく。

 彼の背を追いかけながら黙って廊下を走る。
 寄宿舎を出て、館の2階を走り見張りの姿があるとその身を隠して通り抜けた。

「・・・リーフといったな」
「そうだよ」

 走りながらレイナスは問い掛けてくる。視線は前方を見据えたままに。

「・・・俺のところへ何故きた。お前を好んでいるわけじゃないことぐらい知っているだろう。
 違う場所に案内されると思わなかったのか」
「露ほども思わなかったね」
「何故だ」
「君は応じるだろう。君の方から僕に逢いに来たくらいだ。
 いつ帰れるか分からない身で、故郷と幼馴染の事を喉から手が出るほど聞きたがっているくせに。
 僕を引き渡したり殺したりしたら機会を失う。
 喋るか分からないが、このpielloは知っている。少しの確率に賭けたんじゃないか」
「お前を拷問して吐かすことだってできる」
「それこそできないだろう。お前は此処で勝手な行為をして故郷に帰る日を失くしたくないと思っているだろうから。
 また、優等生で貫いて欺き生きるんじゃないかと僕は憶測しているよ」
「知ったような口を利くpielloだな」
「君達よりこの仕事が長いから」
 
それ以上言葉が続かない事で肯定している事を表しているとリーフは気付き、かつての彼の姿を思い浮かべる。
 それほど前に知り合ったわけではないのに、以前より大人びて見えることに自分が知りうるより彼という人間は深かったのだと知る。

(世間が見えていなかった訳ではないのか)

 全て分かった上で友人を選ぼうとした男。地位・位の差をものともせず友と共に生きていくために。
 リーフが向かった時既に遺体となっていた彼の父。
 同僚のやるせない表情、医者の満足気な微笑。
 全てがフラッシュバックのように思い出されて眉を顰める。

「・・・あんたが全て壊してくれた。それに対して俺はどうこうする力は今は無い。あんたが言うようにあんたに構う暇があれば俺にはすることがある」
「今の状況もそうなのか」

 裏切りに当たるのではないかと嗤ってやると、レイナスは頭を振る。

「俺は帰る。その為に死ぬ事だけは許されない」
「賢い判断」
「協力したんだ。少しくらい教えてくれてもいいんじゃないか」
 
足を止めて、彼はこちらを振り返る。
 彼の望む事を伝えることは簡単だった。

「・・・」

 いつものように思う言葉で伝えれば良い事は分かっている。しかしそうする気にはならなかった。

(壊れるか?)

 今我を忘れられても困る。しかし自分で分かっている。これは言い訳だ。
 レイナスは故郷に誰も待っていないと知っても動じないのではないか。本当は覚悟を決めているのではないかと。
 しかしどうしても言葉に出す事はできなかった。

「・・・同僚を助け出して、目的が達成したら君の所へ行く。その時伝える」

 レイナスは真っ直ぐこちらを見ていたがすっと視線を逸らし、そうか。とだけ言って走り出す。
 リーフもまた彼の背を追いかけた。
 煮え切らない想いを抱いたまま、どうしようもない苛立ちを向けることも出来ずに。


 「ここだ」
 
辿り着いたのは、館の東館の端の部屋だった。
 その扉に触れているとレイナスは一歩退く。

「俺の仕事は此処までだ。後はあんたの好きにしろ。いいな。公爵は此処の突き当りを右に行った部屋にいるはずだ」

 言い捨てて去っていくのを背中で感じつつ、扉に額を押し付ける。

(力を使うのはまずい)

 力を使えばウサギに感づかれる。まだ、ウサギの居ない間にリーフはしなくてはいけない事がある。
 力を入れて扉を開くとそこにはpielloと見て分かる者達が集められていた。
 一歩入ると不思議な力が働いている事が分かる。

(力も思念も使えない・・・?)
作品名:laughingstock6-2 作家名:三月いち