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laughingstock6-1

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 魂を治める太陽と身体を支配する月。月が自分を支配する太陽の光を受けているように、月は太陽となる者から全てを引き出しているのだ。
 誰かがウサギを欲しがっている。月に世界を置き、天上の鍵に異界に存在する自分達を置いて考えている。
 シェロから渡されたこの文献の写本を見て、ウサギの存在に疑問を持った。

(あれがそんなに大層なものなのか)

 リーフにしてみれば微々たるものである。ただ価値のある微々たるもので、何も無い自分の中でほんの少しウェイトを占めるだけ。

 「何も無い」

 リーフは自分の心中を常にそう表していた。人ほど執着するものを持てない。沢山のものに興味を向けられず、つまらない世界に放り出されたものだと。
 硝子柩の中で眠り続けたかったのは自分だ。
 誰とも触れ合わず、気を使う事もなく、意思さえも深くに沈めて眠り続けたかった。それを引き摺りだしたのは自分のウサギ。

『依頼を成功をさせればどんな方法を取ってもいい。好きなことをしていい』

 それは無を抱く自分が眠り続ける事と同じ事を外の世界でしてもいいというのだ。

(どっちにしろ螺子を巻かれたら、起きるしかなかった)

 あのウサギはリーフを外へ引き摺りだして、人と関わらせてもう長く共に生きてきた。彼は役目のためそうしたとして、目的は達成されたのだろう。
 リーフは殆どあの柩の中へ帰らなくなった。
 しかしリーフの中の無は満たされる事はない。一瞬の興味が満たされるとすぐにまた乾く心だ。
 それに抗う事すらやめたこの身はどこまでも美しく儚いものを探すのだろう。自分が意識していない内に。
 その世界へ連れ出したのはあのウサギ。
 彼の名を呼ぶ事は出来ない。しかしいつか彼は自分の元へ戻るだろう。

「・・・それじゃぁ、いけないね」

 何の為に此処まで来たのか意味がなくなってしまう。リーフはベッドから身を起こし、漆黒を纏う自分の姿を見下ろす。
 特に何の異常もない。
 先刻の可哀相な騎士の立っていた場所へ視線を送る。彼は何も知らなかった。
 幼馴染が命を絶ったこともあの仕掛けのことも。

「帰る場所なんて無いってことを知らないなんて、なんていう愚か者なんだろうね・・・」
 
夢を追い続けるのか。また、途方も無い叶わない夢を。
 リーフは馬鹿馬鹿しく哀れだと思う。自分の思うとおりに行動して相手がどうなろうと考えはしない。
 けれど、彼のような者に普通に接してくる彼はきっともっと上手く彼に伝えるのだろうか。

「僕も、変わったのか?」

 不思議そうに問い掛けるが自分の中にも他人からも何も返らない。
 手袋に覆われた自分の手を見ていたが、おろむろに立ち上がり、鍵の掛かっていない扉を開いた。
作品名:laughingstock6-1 作家名:三月いち