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laughingstock6-1

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6章1 move


 異例の収集に戸惑うのはpielloだけではなく、ウサギも同様であったらしくギルドは戸惑う雰囲気となっていた。
 一応部外者のチェレッタもいきなりの収集命令に身を引こうとしたらしいが、扉から出てくる人の数に押されたらしく、自分の持ち場で身を縮めている。
 それにしても此れほどpielloがいるとは思わないほどの数だった。
 よって相当するウサギの数もいるわけで、ギルドは騒々しく混みあっていた。
 リーフは丁度仕事中で、エレナが呼びに行ったが二人とも帰っては来ていない。

「キアラ」

 声を掛けられ振り向くと、常日頃からふらりと出てきてはふらりと消える青年の姿があった。その背後には鷹を飾った右目を持つウサギの姿。

「ロイ。・・・一体なんだ?これは。今までこんな事はなかった。

 それにこのpielloの数・・・見たことのない奴らだって多い。こんなにもこの城に潜んでたっていうのか・・・」

「時間帯が合わなかった者だろう。それに、この城を拠点にしていない者もいる」
「此処じゃない所を?」
「向こう側を拠点にしている者もいるという事だ。リスクは高いが、別に此処にいなければいけないという規定はない。
 知らなかったのか?」

 事も無げにロイは言うが、キアラにとって初耳な事だった。

「此処に規定などあったのか」
「それが普通だ。普通にしていれば規定なぞ無いにも等しいような物。気にする者もいまい」

 ならば他の者も規定がある事すら知らない方が当たり前という事か。ならば何故ロイはその規定を知っているのだろう。
 気になってロイに訊こうとしたが、つい口を噤んでしまう。ロイにはお見通しのようだったようだが。

「問題児ほど規定を知っているものだ」
「お前が?何かしているようには見えないんだが・・・」

 癖毛を混ぜ返しながら困惑していると、ロイは上空に視線を上げる。
 このギルドのある場所は天井が高い。5階はあるだろうかという高さの辺りにある。
 しかし階段など此処にはないのだ。
 一階ごとに出窓があり、人が一人出る事ができるスペースが空いて、それが5つ上へついている。

「問題児だとも。リーフと同じ程良くは思われていないさ」
「リーフ?」

 彼の名前が出てくる事こそが分からない。彼こそ上層部のお気に入りだろう。
 彼のやり方はお世辞にもスマートとは言えない。
 何が彼をそうさせるのかは分からないが、キアラ達といる時の彼と仕事の彼は別人のように思う時が偶にあるだけだ。
 ロイもリーフが浮かべるように可笑しそうな表情をした。

「キアラ、リーフが優等生に見えるのか?」
「いや・・・。ただ、あれがそんなに言われる様な事をしているような気がしないだけだ」
「・・・一度訊いてみたいと思っていたが、お前達からアイツはどのように見えている?」

 難しい質問だとキアラは思った。
 だが、キアラは此処で見ている彼しか知らない。

「人当たりがいい・・・アイツを嫌う奴なんていないんじゃないかと思う。あの見た目で、何かと可愛がられている。エレナだって懐いているし、チェレッタも気に入ってるんじゃないか?
 俺達に対しても特に変ったものはない。ただ、ウサギに対する態度がよくわからない」
「人当たりがいい・・・か」
「そうは思わないのか」

 リーフとロイだとすると、確実にリーフの方が人当たりが良い。けれどロイは同意の意を示そうとはしなかった。

「悪いが、必要だから関わっているとしか俺には思えないな。俺達は勿論依頼人に対しても同じだろう。
 それ以上を感じるような事はないと思う」

 ロイが冗談を言っているような雰囲気はない。ただ、自分の中の事実を並べているといった様子だった。
 リーフやロイをちゃんと知っている訳ではない。訳ではないが、長年此処で共に関わりながら、ロイがそんな事を思いながら共にいたことは信じたくはない思いだった。
 こちらの言葉を読んだようにロイは続ける。

「何故?と問いたそうだな。俺は別にアイツの気持ちを読んだわけでもないし、リーフが嫌いな訳じゃない。
 仕事でのアイツは俺達相手なら同じ対応をする。しかし、アイツの仕事をちゃんと見たことがあるか?
 人を哀れんでいるようでほんの少しも心を動かされていない。ただ、自分の気に入らないものは気に入らないだけ。気に入るものは気に入る。
 それだけで動いているように思った。その思いは今も変っていない」
「ロイ」
「結局そんなpielloが上層部に気に入られるかどうかと訊かれると、否だな」
 
話が元に戻った事について行けず、キアラが呆然としているとロイの髪が伏せて見えない左の飾りが揺れる。
 風も吹いていない。彼は姿勢を変えず立ち尽くしている。
 周囲のざわつきが止みつつある。

「俺の言葉をどう思うかなんて俺は知った事じゃない。信じるのは己の見たものが全てだと俺は思う。キアラ、もう動き出しているんだ」

 ロイが何故自分にそう呟くのかキアラには分からなかった。それを問い詰める前に始まってしまったからだ。
 だから気付く事ができなかった。彼の本当に小さな呟きに。

「ただ、リーフはそのように造られた。俺も同様だ」

 そして周囲と同じく上空を見上げようと顔を上げると近くで大きな物が落ちる音がした。
 周囲も驚くほどの大きな音だったのでそちらに顔を向けると、ハートの付いたウサギとリボンに巻かれたウサギの姿が合った。
 何故か尻餅をついたような状況だったが、普通ウサギは着地に失敗はしない。
 余程の何かがあったのだろうか。

「パパス・・・あー何だ。リーフのウサギ、二人はどうした」

 彼らの仕える者の姿はない。パパスがすぐ身を起こして何事もなかったように立ち上がり、何処かへ行こうとするのを他のウサギに道を阻まれた。
 ウサギ同士に言葉はないが意思の疎通ができるのだろうか。

「見つめ合っているだけでは分からないが、あれ同士何か分かるのだろうな」

ロイがしきりに感心しているがそれに構っている状態ではない。キアラはぴくりとも動かないもう一匹のウサギの前に屈みこむ。

「リーフとエレナはどうした?」

 キアラが問うても返事はない。やはり自分のウサギでないと意思の疎通はできないようだった。

「ロイ、これは普通か。有り得ないんじゃないのか」
「キアラ、ロイ!リーフとエレナは?」

 チェレッタが人込みの中掻き分けて姿を現す。

「あいつらは帰ってない。帰ったのはウサギだけだ」
「キアラ」

 ロイが上を見上げろと促す。そこには人が一人全身法衣を纏い立っていた。またざわついていた空間が一気に静まる。
 その中でロイだけが常と同じ声量で周囲も何も見ていないように呟く。

「始まったんだろうな。だが、先ずは誰か」


 神の代理たる異形の者達は天上の鍵と地上の統治権をともどもに有している。
 教皇は神によって民衆と国の上に置かれている。
 世界の創造者である神は天空に世界を照らし出す偉大な天体を二つ創られた。
 昼を司る太陽と夜を支配する月である。
作品名:laughingstock6-1 作家名:三月いち