laughingstock5-3
分からない。きっと彼らがまた嵌めたのだ。ユージンも碌な目に遭っていないかもしれない。
自分はすぐにあの街を離れた。彼に挨拶もできなかったが、きっとあの街で街医者として名を知らしめているに違いない。
父のような人間を助け、弱き者を救っているはずなのだ。
レイナスは約束は護れなかったが、彼は彼なりに生きていてくれていると信じている。
「・・・さぁ。もうお帰り。僕から話す事はもうないよ」
そういって彼は眼を閉じてしまった。
このまま彼の息の根を止める事は簡単だった。けれどそれはあのベナ伯爵の怒りを買うことになり、レイナスの考え付かないような方法で此処で甚振り殺されるのだろう。
それだけは避けたい事だった。自分はあの街に帰らなければならない。
仕方なく部屋から出て行き、持ち場へ戻るために駆け出す。
胸に一抹の不安を残したままで。
彼が姿を消してから、リーフは暗闇の中眼を開く。
左手で眼を隠して自嘲するように呟く。
「本当に、碌なものじゃないな・・・」
此処へ来た事に後悔は無い。しかし、こんな形で出会うとは思いもしなかった。
どうでもいい相手だった。あの頃ほど丁寧に自分を繕う事がなくなった事は痛切に感じるが。
(知らない・・・とはね)
「本当によく利用される人だ。このまままた何も知らずに生きていくのかな。
・・・僕の知った事じゃないか」
自分は此処でする事がある。ただの人形に還る前に調べなければ。
「・・・自分からいかないといけないか」
続く。
作品名:laughingstock5-3 作家名:三月いち