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laughingstock5-3

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5章3 phosphorus


 意外に長居をしてしまったとアレスは去っていってしまったが、シェロは少し気が晴れた気がした。
 そうだ。私刑の場に行かされなかっただけでもマシなのだ。高位の方の恩情とシェロの地位のおかげではあるが、そのおかげで身体に傷一つ無くこうしていられる。
 懺悔室の向こうで扉が開き、閉まる音がする。一晩中、シェロが何か言うまで待機を命じられている初老の者が戻ってきたのだ。

「何か、まだ言う事はないかね」
 
そんな事を聞かれ続けるのだ。シェロが精神的に追い詰められて吐くまで。しかしシェロが彼に渡せる情報はもう無かった。後は、墓まで持っていくものだけだった。
 シェロは黙ってそれをやり過ごす。彼がシェロを宥めるような甘い言葉を呟いているが、それを遮断して椅子に腰を掛けて目を閉じて思考の海へ潜る。
 今、できる事はどうすれば今の状況を打破できるかだけだった。
 何の反応も示さなくなった事に呆れた初老の聖職者は壁一枚向こうで黙り込み、寝ずの番に徹する気配を感じてシェロも同様に感覚を遮る。

(このまま、朝まで堪えよう。全てはそれからだ)

 
その頃、リーフはウサギと共に大聖堂の中枢部まで足を運んでいた。その先に何かあるという訳ではない。依頼は達成した。しかしリーフの目的はこの封鎖され、人の世俗から離れた場にある大聖堂を建てた始祖の自画像を見にきたのだった。
 以前、シェロと初めて契約した時に感じた違和感。それは彼の渡してくる写本の事だった。ウサギとpielloは知られているといっても所詮御伽噺のようなものだ。自分達を使う者というのは本当はごく少数のはずなのだ。しかしこの写本の所為で多くの人間がpielloの存在を知っていた。
 その姿や共に現れるウサギの事さえ。見ただけで分かるほどに。

「最初はルイスの所為かと思っていたんだ。けれどね、名も無きウサギ。
 ウサギを持たないルイスはこの世界を自分の足で歩くしかないけれど、彼は巧妙だと思うよ」

 あれほどこの世界の出現率の高い彼を捕まえた貴族やコレクターを聞かない。彼はとても器用に危険から逃れている。よって運でも良くなければ彼という異色のpielloを捕まえる事はできないだろうとリーフは踏んでいる。
 ならば、pielloをどうして民衆が知る事ができたのか。

「簡単だ。此処の始祖がpielloと会ったからだ。・・・pielloを神の化身とでも思ったのかもしれないね。
 そんな内容の写本だったから。どこぞの公爵様の上司は相当のコレクターらしいよ。pielloの。
 知っているだろ?僕らは不老だけど不死じゃない。
 自称綺麗なもの好きのベナ公爵は、都合の良い事に僕を彼の上司に売り渡すつもりはないようだね」
 
ウサギが何故分かるというようなジェスチャーをしてくる。リーフは肩を竦めておかしそうに顔を歪める。

「それは、此処がもう袋小路だからさ。さっさと“保護”するつもりなようだね」

 その言葉を聞いてか聞かずか丁度頭上にエレナが姿を現す。ウサギに落としてもらったのか、姿はなく、めくれ上がりそうなスカートを押さえて目の前に着地した。
 エレナは相当急ぐらしくリーフの腕を掴む。

「リーフ、此処にいたの?異例の召集がかかったんだよ!早く戻らないと!!」
「召集?」
 
召集とはと聞き返そうとした時、周囲を剣先で埋められる。数十人の兵士に固められ、身動きすれば全身を串刺しにされるだろう事は分かる。エレナが驚いてリーフの腕を掴んだまま後退する。
 だがそれを止められ、エレナは眼を見開き隣で不思議なほどに感情を表さない顔を仰ぐ。 
 また、ウサギが空間を飛ぼうとしているのを見て、リーフは手で制する。
 周囲を見回して目的の人間を探す。彼はいつもの自信に溢れた様子は無く、どこか悔しげな申し訳なさそうな不思議な表情でこちらを見ていた。
 リーフはその様子を嘲笑って微笑した。

「こんにちは。ベナ公爵。貴方は挨拶の代わりに剣先を向ける方でしたか」
「ぅうっ・・・リーフ、傷つけるつもりはないのだ・・・分かってくれたまえ」

 彼の弱気な返事を聞きながら、周囲を見回す。途端に剣先が震え始める事がリーフからしてみれば滑稽でこのうえない。彼らの感情はただ、未知に対する畏怖だった。
 リーフは誘うように彼らに近寄る。

「ひっ・・・悪魔の遣いめっ・・・」
「貴様ら!何て羨ましい!!リーフに見てもらえるとか頭が高いぞ!」

 逃げ腰な彼らの後ろでベナ公爵が変な抗議の声を上げる。リーフの腕を掴んでいるエレナがベナ公爵に対して一言。

「・・・あの人、変」

 途端、空気が変わった。エレナを一瞬見てベナ公爵は理性を取り戻したらしく、わざとらしく咳一つ。

「・・君もpielloかね?ふむ。リーフの代わりに君を連れて行けばあの方も納得して頂けるかもしれないな・・その娘を連れて行け」
「やっ・・・ちょっと!触らないで!!パパス!どこ?」

 リーフの腕からエレナは無理矢理引き剥がされていく。そのまま兵士の中へ紛れて姿が消える。
 リーフのウサギは動かない。リーフが一言も助けろと発さないからだ。
 当の彼は面白そうにベナ公爵の横をすり抜けてその背後で傍観に徹していた人物に近付く。
 相手もまた、面白そうに口元に笑みを浮かべてリーフを迎えた。

「この空間を作り上げたのは、やはり貴方か。ルイス」
 
異様な雰囲気を纏う女性と見違う者は前回、リーフ達の邪魔をした元・pielloだった。リーフと少し距離を取って以前のようにふわりとした口調で挨拶してきた。

「また会ったな。リーフ・・と言ったか。本当に、つくづく不思議だ。
 わざわざこんな時に会う事もなかろうに」

 肩を竦め、呆れたように嘆息する彼を見据えながらリーフは問う。

「pielloの収集家に手を貸すとは。こちらこそ本当に、目的が聞きたいね」
「言っただろう。我も依頼で動いているのだ。勿論、偶には保身のためでもあるがね」

 前方の兵士達を一瞥すると彼らは、怯え、一歩前へ退く。
 形の良い唇を歪めさせ、ルイスはその手に持っていた傘を前に突き出す。

「お前達の命を奪うのは簡単なのだと教えておかねば、人は偶に過ちを犯すからな。
 それだけ分かっていれば自分の身を守るのに、一番良い蓑は何処であると思う?」
「天敵か・・・」
「賢い子は好きだな」

 にこりと笑って傘を下ろす。ルイスは度々ウサギから身を隠すために収集家の下に身を隠していたという事に改めて厄介さをリーフは認識した。

(・・・ここで逃げるのは簡単)

 自分のウサギに命じればいいだけだった。
 彼もそれを望んでいるだろう。しかし、リーフにはその先に用があった。
 潔く両手を上げて降伏の意を表すと、途端兵士達に床に身体を引き倒されて息が詰まる。両腕は掴まれ、背に剣先が当たっているのが分かった。

「貴様ら!リーフに無体な真似を誰がしていいと言った!!」

 ベナ公爵がずれた怒鳴り声を上げているがこの際どうでもいい。
 少しくぐもった声が出たが、気にせず眼で自分のウサギに命じる。ウサギは動かない。
作品名:laughingstock5-3 作家名:三月いち