laughingstock5-1
人を見下すような態度で入ってこられるのは日常茶飯事だった。知識人といえど若輩者、その点で彼らは差別し、歯牙にもかけようとしない。傲慢な口調で一方的に用件を伝え、シェロの同僚や写本書写修道士たちを罵倒しては帰っていく。
(立派な聖務だというのに、分からないのだろうな・・・)
彼もまた同じ類なのだろうかと真っ向に見つめ返す。しかし意外にはっきりとした事務的な様子で手に持つ書類を手渡してきた。
「シェロ殿、手が空かなかったのでこんな時間に持ってくることをお詫びする」
「いえ、構いませんよ」
渡された書類はたった2枚。彼は上位聖職者の衣を身につけているのを確認し直し、これが重要機密文書だろうという事が推測がついた。
「でしたら、後で必ず読ませていただきます」
「いえ、今お読み下さい」
「は?」
おかしな話に訊き返すと、彼が背後に視線を向ける。
扉の向こうがざわついていた。
複数の人間が待機している。おそらく彼の命令で。
「シェロ殿、私が直々に来た理由がもうお分かりですな。その書類の返答によっては貴方を尋問致します。
勿論、大司教からの御命令である」
(彼が齎したものはこれだったのか)
「お受け致しましょう。何を聞かれても私には疚しい事はございませんので」
彼の事と拾い子の事は胸の内に隠したまま。
アレスと自分を慕う者の言葉に痛む場所を押さえて、真っ向に彼を睨み返した。
続く。
作品名:laughingstock5-1 作家名:三月いち