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laughingstock4-4

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 神も崇めず、何処かへ帰ってしまう相手に恋焦がれているなんて。もう時間がないのに。その事が悔しくてどうしても涙が溢れそうになる。
 泣きたくはなかった。せっかく彼が強く気丈だと褒めてくれたのに、それを覆したくはなかった。
 リリエッタはリーフを見て泣き出しそうな顔で笑う。

「貴方を憎んでなんてない。元々頼るつもりなんてなかったし。
 ・・・でも、もう少し一緒にいたかった、かしら」
「ではもう少し。貴方が僕と話をしたいというならば、依頼人の願いは聞かないとね」
 
小さな愚痴にリーフは応えてくれる。しかしそれは何処までもリリエッタを思いやるものではなく依頼人を思いやるものだった。

「・・・本当に、何も望ませてくれない貴方が嫌いだわ。嫌いで・・・でもどこか好きだったわ」
「顔?」
 
そういえば最初の頃そんな事もいった気がして、リリエッタは微笑む。そしてあれからほとんど時間も経たずこんな結末になった事がしこりを残す。

「ふふっ・・・そうしておいてあげるわ。リーフ。
 もっと早く逢ってみたかった・・貴方はそう思わせる何かがあるのね」
「不思議だな。よく言われる。リリエッタもそう思うのですね」
「ええ。・・・笑顔よりも違うものがみたいと思うもの。もっと時間があれば、見られたかしら。
 貴方を掴む事が、できたかしら」
 小さな願いを込めて、その人形のように整った顔を見つめると、ほんの少し申し分けなさそうに答える。
「・・・貴方には掴めないよ。先に予約が入っているから。
 僕を求めてるのが2人ほどいてね」
「それって素敵ね・・・」
「素敵?」
 
リリエッタはうっすらとリーフを見ている。

「だって・・・リーフが許したのでしょう?大切にされているのね・・・。
 これからも大切にしていくといいわ・・・」
 
私もそのヒトリニナリタカッタと言えば彼は反応してくれるだろうか。その考えを振り切ってリリエッタは首を振る。彼はきっとそんな人を沢山見ている。自分もそんな内の一人にはなりたくなかった。
 彼の中に残りたい。ほんの少しの欠片でもいい。
 リーフは少し面白そうにどこか遠くを見た。

「1人は何処かの大聖堂で写本書写修道士長をしていて、眼鏡をかけていてね。
 貴方くらいの年齢で、いろんなものを護ろうとしていた。君に融通を足したような人。
 僕は彼にならば構わないと言ったよ」
「・・・なら、余計勝てないわ。本当、貴方って酷い人ね・・・」
「そうかも。さよなら、リリエッタ」

 くすりと笑ってリーフは牢から出て行った。リリエッタにはそれでいいと思えた。
 これで伝わるとも確実に分かったから。


 扉から出たリーフはすぐ目の前にいるルイスと自分のウサギの様子がおかしい事に気がついた。
カタカタと震えるウサギ。逆にルイスは涼しい顔だ。そして、出てきたリーフに問い掛けてくる。

「あの世界に残された我の罪の一つ。お前、その不自由な身体を呪っているか。あの世界で生まれ、あの世界で生き、ウサギがいないと生き続けられないその肉体を」
「・・・前回の質問か?」

 ルイスは頷き、答えろと催促する。リーフは深々と溜息をつきながら視線をウサギに映す。そして背後を向いて自分から後ろ髪を掻き揚げて螺子を晒す。

「これが僕だ。こうして生まれたからには僕はこの身体も僕の物だ。少々不自由だろうとそれは僕の荷物でしか ない」
「・・・そうか」
「訊きたい事がある。お前の罪の一つとはどういう事だ?」
 また振り向き直して彼に問い掛ける。
「・・・」

ルイスは薄ら微笑むだけだ。ただ、一つ脈絡の無い事を言われる。

「そのウサギが大事か?」
「?」

 ルイスは達観した様子でリーフを見ながら、ふわりとリーフから離れていく。どこか過去を思い出すように空を見つめ、微笑む。
 どこまでも人らしい笑顔に逆にリーフが困惑する。

「・・・結末を如何こう言うつもりは我には無い。お前が選ぶ事であり、我も選んだ。
 お前と我の違いは多い。お前の質問を含めてお前に教える事はまだ、我にはできぬ。
 ただ、我は人間だ。かつてpielloであり、時間の刻みと記憶を取り戻した者。
 多分、我こそ最初で最後の逃亡者で解放された者である」
「何・・・?」
「ウサギを信じるな」

 きっぱりとそして今までの柔らかい口調を捨てて硬く硬質な声音で言い放った。それを問う前に彼は牢から歩いて遠ざかっていってしまう。
 追えば追いつける。しかし何故かリーフにはそうする気は起きなかった。

「・・・・」
 
ルイスの言葉は全てを知った者の言葉だと思う。彼を信じるなら、自分はいつかもう一度彼に逢わねばならないだろう。
 ふと横から懺悔の念が流れ込んでくる。多分、自分から螺子を見せる事になった事に責任を追っているのだろうが。

「お前が気にする事じゃない。あれは僕の意思だ。それより大分ルイスに怯えていないか?お前」
 ウサギの沈黙。言葉・感情を探しているが上手いものが見つからないらしい。ただ、自分とルイスを逢わせたくなかったという思いだけは流れ込んでくる。

「・・・そんな事言われてもね。僕らあの村でもうとっくに自己紹介交わしちゃってるんだよ。
 それより、また仕事ができた。やっぱり中に入るんじゃなかった・・」

面倒だと呟きながら、ウサギを馬鹿にするように見上げる。

「シェロの所に、焚刑の事を伝えなくちゃいけないんだ。良かっただろう?お前も久し振りに会えて」

 そんな理由なら喜べないというウサギにリーフも頷く。
 仕事を失敗したのもある。けれどほんの少し、あまりに泣く気丈な彼女をどこかへ連れていってあげたかった気持ちがあったのも事実だったから。
 近いうちにまた、ルイスとは出会うだろう。何よりウサギを連れず、リーフの意志で出会いにいかなければいけない予感に晒されて、やはり一つ溜息。

「お前の所為だよ。名も無きウサギ」

 本当に、手古摺らせてくれる。

4章ー完ー
作品名:laughingstock4-4 作家名:三月いち