laughingstock4-1
第4章 Verita
此処はpiello達の集う場所。ランプがある一定ずつ置かれているがその距離は遠く、あまり功を為していない。その中を一人の娘が走っている。周囲は誰もいない。それは此処では当たり前となっていた。
その中を走ろうが喚こうが誰も咎める事は無い。
やがて息を切らしたのか、暗闇の中立ち止まり、肩を上下させている。
「~もう!何処に行っちゃったの~?」
思い浮かべる姿は果てしなく遠い。元々自分の相棒は喋る事ができないため、エレナは途方に暮れる。ウサギの姿を探して、大理石の廊下を通り過ぎてやがて大広間へと出てしまった。
「ここ・・・どこ?」
エレナ自身もこの城全てを歩いたことがあるわけではない。自分がいつもいる場所はできるだけ風のあたる場所にいるのであまり中枢部まで来た事が無かった。しかし今日は自分の相棒とはぐれてしまい、普段来た事の無い場所を手探りで探している最中だった。
「パパスー?本当にどこにいるの・・・!?」
とにかく少しでも声が通るように大声で呼びかけていると、手をついていた壁がいきなり無くなった。
「ぅん!?」
その方向に体重をかけていたため、そのまま身体が転がるのを感じて、少しでも痛みを感じないように全身を緊張させる。そのままごろごろと転がって気付いたが、階段から転げ落ちたらしい。
「あたた・・・なぁにこれ・・・」
身を起こすと先程の場所からかなりの段数を転げ落ちたらしく、上から階段が続いているがまったく見えない。
(地下・・・?)
とりあえず腰をしたたかに打ったために庇いながら立ち上がって灯の点るその先へ向かった。
それは異様な光景であった。
沢山の鉄格子のついた牢があり、その中には誰もいない。ただコポコポと分からない機械が音を立てて動いている。上の階の様子とは違いすぎる風景にエレナは呆然と立ち尽くした。
「・・・これ・・・何?」
道はまだ先へ続いている。エレナは何にも触らないようにして奥へ進む。その先に相棒がいる事を信じながら。
扉は開いている。それを確かめて、エレナは隙間に身体を滑り込ませる。―そして部屋を見て、悲鳴をあげた。
「な、何・・・・何なの!?」
異様な数の柩。中身の透けた柩が沢山置かれている。その中には自分の同僚の姿がある。皆、眠っているというより拘束されているといった方が正しい。
そして柩に満たされた液体。柩の先から繋がっている機械は鈍い音を立てながら動き続けている。それをおぞましく思いながら進むと、見慣れた姿を見つけてエレナは柩に飛びつく。
「ロイ!!!??」
自分達の元にいる寡黙なpielloの彼が柩の中で眠っている。その柩には異様な紋が描かれており、彼もまた拘束されて目を閉じている。エレナは何度かその柩を叩くが彼は反応が無い。
「ロイ!ロイ!ねぇ・・・どうしてそんな所にいるの!出られないの?」
とりあえず手錠や首輪を外してあげなければと思いつき、柩の開ける場所を探す。柩の扉は大きな錠があり、鍵穴が一つ開いており、鍵がないと開けることはできないようだった。
エレナは此処から出たいと今更ながらに思う。しかしこの空間から逃れられる気が何故かしなかった。悲しくなってロイの柩に縋りつく。
「・・・ロイ、私どうしたらいいか分からないの。パパスもいないし、此処がどこか分からないし出られない。 起きてよ、ロイ。私を助けて」
両腕で柩に抱きつくようにして顔を伏せた。
こうしていると機械の何かが落ちていく音しか聞こえない。ロイの心臓の音も聞こえないが。それでも落ち着いてこれるような気がした。
此処はなんだろう。何故、こんなにpielloが鎖で繋がれているのだろう。エレナ達はこの城から出る事はできないが自由に動く事は許されているのに。
その後ろからぎぃぃと何かが開く音がする。エレナは目を閉じたまま身動ぎせずにその場で座り込む。
やがて鍵を回す音、そして何かが溢れる音、かちゃり、かちゃりと何か金属の触れ合う音、それらが止んでしばらくした時にエレナを抱き上げる腕を感じた。
重くなっていた瞼を開けると、灰白色の髪と特徴的な右目の紋が目に入る。その目がいつものようにエレナに柔らかく微笑む。
「・・・リーフ・・・」
「エレナ、こんな所で寝ると冷えるよ?」
ようやく知り合いに合えた事と此処から出られる喜びに目に涙が滲んで、それを隠すように彼の首に腕を回す。
「・・・っ!リーフ・・・迷い込んじゃって・・・心細くて・・・」
「うん」
「・・・でも此処何か変で・・・。ロイ・・・そう・・・ロイが起きないの。縛られてて痛そうなのにあの柩、 開かないの」
「此処の扉はウサギが開けるからね」
その言葉に顔を上げて、エレナはリーフを見つめる。
「リーフも?リーフも此処にいたの?此処で・・・何してるの?」
エレナのあまりの悲壮さと必死さといつもの気丈さの無さにかリーフは微笑したようだった。
「此処にいるね。此処は僕やロイの寝床だから」
「寝床・・・?」
「エレナが考える酷い事は何にもされてないよ。エレナが此処に来たって事は僕の他に誰か起きるのかな・・」
僕のウサギは律儀に扉は全て閉めていくから。とおどけて見せて、後ろの彼のウサギに問い掛けている。エレナはリーフの首にしがみ付いたままぼんやりする視点で周囲を見渡す。
すると彼の背後で、ロイの柩をウサギが開いていた。鍵を回し、ロイの拘束具を外しているうちに液体は気化していっている。そして首から掛けた一際大きな鍵をロイの後頭部に差し込んで何度か回している。
そうするとロイが目を開いたのが分かり、片方の手でリーフの三つ編みを掴んで引く。
「・・・痛い」
「リーフ・・・ロイが。ロイが出てきた」
「ん?あぁそうだね。おはよう、ロイ」
リーフが身体を反転させたため、エレナはロイから隠れる事になったが隠れてしまってよかったと感じていた。
(取り乱したなんて・・・恥ずかしくて私死んでしまうわ)
ロイの不思議そうな声音がエレナの背後から聞こえてくる。
「・・・リーフ、一つ聞いていいだろうか」
「どうぞ」
「エレナはどうしたんだ?」
少し躊躇する気配を感じる。ついでに腕の中のエレナを見下ろし、いつもの調子で答えた。
「道に迷ったらしいよ。・・・でも、そこで寝てたロイ見て心配したらしい」
「・・・そうか」
ぼそぼそと喋るロイに早くどこかに行ってほしいとリーフの肩元に顔を埋める。そのエレナの頭を撫でる手がある。手袋ではない生身の感触にリーフではなくロイの手だと分かった。
「すまない。・・・だが・・・ありがとう・・・」
普段から言葉の少ない彼からの言葉に驚いて、後ろを振り向くとロイは目元を和らげている。思わずあたふたと暴れて始めたエレナに今度は頭の上から失笑する気配を感じて見上げると、皮肉そうなリーフの表情がある。そんな表情を初めて見てエレナはまた違う意味で息を呑んだ。
「それ程元気なら大丈夫だね?」
そういうとリーフはロイの方へエレナを手渡す。
此処はpiello達の集う場所。ランプがある一定ずつ置かれているがその距離は遠く、あまり功を為していない。その中を一人の娘が走っている。周囲は誰もいない。それは此処では当たり前となっていた。
その中を走ろうが喚こうが誰も咎める事は無い。
やがて息を切らしたのか、暗闇の中立ち止まり、肩を上下させている。
「~もう!何処に行っちゃったの~?」
思い浮かべる姿は果てしなく遠い。元々自分の相棒は喋る事ができないため、エレナは途方に暮れる。ウサギの姿を探して、大理石の廊下を通り過ぎてやがて大広間へと出てしまった。
「ここ・・・どこ?」
エレナ自身もこの城全てを歩いたことがあるわけではない。自分がいつもいる場所はできるだけ風のあたる場所にいるのであまり中枢部まで来た事が無かった。しかし今日は自分の相棒とはぐれてしまい、普段来た事の無い場所を手探りで探している最中だった。
「パパスー?本当にどこにいるの・・・!?」
とにかく少しでも声が通るように大声で呼びかけていると、手をついていた壁がいきなり無くなった。
「ぅん!?」
その方向に体重をかけていたため、そのまま身体が転がるのを感じて、少しでも痛みを感じないように全身を緊張させる。そのままごろごろと転がって気付いたが、階段から転げ落ちたらしい。
「あたた・・・なぁにこれ・・・」
身を起こすと先程の場所からかなりの段数を転げ落ちたらしく、上から階段が続いているがまったく見えない。
(地下・・・?)
とりあえず腰をしたたかに打ったために庇いながら立ち上がって灯の点るその先へ向かった。
それは異様な光景であった。
沢山の鉄格子のついた牢があり、その中には誰もいない。ただコポコポと分からない機械が音を立てて動いている。上の階の様子とは違いすぎる風景にエレナは呆然と立ち尽くした。
「・・・これ・・・何?」
道はまだ先へ続いている。エレナは何にも触らないようにして奥へ進む。その先に相棒がいる事を信じながら。
扉は開いている。それを確かめて、エレナは隙間に身体を滑り込ませる。―そして部屋を見て、悲鳴をあげた。
「な、何・・・・何なの!?」
異様な数の柩。中身の透けた柩が沢山置かれている。その中には自分の同僚の姿がある。皆、眠っているというより拘束されているといった方が正しい。
そして柩に満たされた液体。柩の先から繋がっている機械は鈍い音を立てながら動き続けている。それをおぞましく思いながら進むと、見慣れた姿を見つけてエレナは柩に飛びつく。
「ロイ!!!??」
自分達の元にいる寡黙なpielloの彼が柩の中で眠っている。その柩には異様な紋が描かれており、彼もまた拘束されて目を閉じている。エレナは何度かその柩を叩くが彼は反応が無い。
「ロイ!ロイ!ねぇ・・・どうしてそんな所にいるの!出られないの?」
とりあえず手錠や首輪を外してあげなければと思いつき、柩の開ける場所を探す。柩の扉は大きな錠があり、鍵穴が一つ開いており、鍵がないと開けることはできないようだった。
エレナは此処から出たいと今更ながらに思う。しかしこの空間から逃れられる気が何故かしなかった。悲しくなってロイの柩に縋りつく。
「・・・ロイ、私どうしたらいいか分からないの。パパスもいないし、此処がどこか分からないし出られない。 起きてよ、ロイ。私を助けて」
両腕で柩に抱きつくようにして顔を伏せた。
こうしていると機械の何かが落ちていく音しか聞こえない。ロイの心臓の音も聞こえないが。それでも落ち着いてこれるような気がした。
此処はなんだろう。何故、こんなにpielloが鎖で繋がれているのだろう。エレナ達はこの城から出る事はできないが自由に動く事は許されているのに。
その後ろからぎぃぃと何かが開く音がする。エレナは目を閉じたまま身動ぎせずにその場で座り込む。
やがて鍵を回す音、そして何かが溢れる音、かちゃり、かちゃりと何か金属の触れ合う音、それらが止んでしばらくした時にエレナを抱き上げる腕を感じた。
重くなっていた瞼を開けると、灰白色の髪と特徴的な右目の紋が目に入る。その目がいつものようにエレナに柔らかく微笑む。
「・・・リーフ・・・」
「エレナ、こんな所で寝ると冷えるよ?」
ようやく知り合いに合えた事と此処から出られる喜びに目に涙が滲んで、それを隠すように彼の首に腕を回す。
「・・・っ!リーフ・・・迷い込んじゃって・・・心細くて・・・」
「うん」
「・・・でも此処何か変で・・・。ロイ・・・そう・・・ロイが起きないの。縛られてて痛そうなのにあの柩、 開かないの」
「此処の扉はウサギが開けるからね」
その言葉に顔を上げて、エレナはリーフを見つめる。
「リーフも?リーフも此処にいたの?此処で・・・何してるの?」
エレナのあまりの悲壮さと必死さといつもの気丈さの無さにかリーフは微笑したようだった。
「此処にいるね。此処は僕やロイの寝床だから」
「寝床・・・?」
「エレナが考える酷い事は何にもされてないよ。エレナが此処に来たって事は僕の他に誰か起きるのかな・・」
僕のウサギは律儀に扉は全て閉めていくから。とおどけて見せて、後ろの彼のウサギに問い掛けている。エレナはリーフの首にしがみ付いたままぼんやりする視点で周囲を見渡す。
すると彼の背後で、ロイの柩をウサギが開いていた。鍵を回し、ロイの拘束具を外しているうちに液体は気化していっている。そして首から掛けた一際大きな鍵をロイの後頭部に差し込んで何度か回している。
そうするとロイが目を開いたのが分かり、片方の手でリーフの三つ編みを掴んで引く。
「・・・痛い」
「リーフ・・・ロイが。ロイが出てきた」
「ん?あぁそうだね。おはよう、ロイ」
リーフが身体を反転させたため、エレナはロイから隠れる事になったが隠れてしまってよかったと感じていた。
(取り乱したなんて・・・恥ずかしくて私死んでしまうわ)
ロイの不思議そうな声音がエレナの背後から聞こえてくる。
「・・・リーフ、一つ聞いていいだろうか」
「どうぞ」
「エレナはどうしたんだ?」
少し躊躇する気配を感じる。ついでに腕の中のエレナを見下ろし、いつもの調子で答えた。
「道に迷ったらしいよ。・・・でも、そこで寝てたロイ見て心配したらしい」
「・・・そうか」
ぼそぼそと喋るロイに早くどこかに行ってほしいとリーフの肩元に顔を埋める。そのエレナの頭を撫でる手がある。手袋ではない生身の感触にリーフではなくロイの手だと分かった。
「すまない。・・・だが・・・ありがとう・・・」
普段から言葉の少ない彼からの言葉に驚いて、後ろを振り向くとロイは目元を和らげている。思わずあたふたと暴れて始めたエレナに今度は頭の上から失笑する気配を感じて見上げると、皮肉そうなリーフの表情がある。そんな表情を初めて見てエレナはまた違う意味で息を呑んだ。
「それ程元気なら大丈夫だね?」
そういうとリーフはロイの方へエレナを手渡す。
作品名:laughingstock4-1 作家名:三月いち