laughingstock3-1
僕もそいつの事は殆ど知らない。でも少しは自分っていうものを知ればいいんじゃないかという老婆心だよ」
「お節介・・・しているんだ」
「放っておくと思考の海に入っていって自傷行為を始めるような奴だから」
シェロは自分の考えている相手とリーフのお節介を受けかかっている相手は違う相手のように思えてきて思考が止まる。
「・・・自傷行為?」
「うん。血は出ないと分かってても自分の腹から赤い綿を引きずり出す姿はちょっと良い気分じゃないね」
やはり同じ相手らしい。シェロは困惑気味に視線を空に漂わせる。
(神よ。世界は広すぎます・・・)
「何でだろう。シェロ、君の考えている事が手に取るように分かるんだけど」
「・・・私の勉強不足だよ。まさかあのウサギがそんな事をするなんて写本にも書いていないから・・・」
そこまで喋ってはたと気付く。
何故この世界に存在していないはずのウサギの話が写本に出てくるのだろう。リーフに頼まれた写本はどれもウサギについて書かれていた。
「・・・何故、創立者達が写本としてウサギについて残しているんだ・・・?」
リーフは少し考えて手に持っていた写本を眺める。
「一つは創立者が僕らに関わっていた事もあるかもしれない。どこぞの公爵だってpielloを崇めてる。
ウサギを崇める聖職者だっているかもしれないよ。
もう一つは、外界の者があのウサギを・・・僕らのシステムを作ったのかも知れない」
けれどそれはどうでも良い事だと呟いて、シェロの書き写した写本を全て両腕に抱く。
「・・・じゃあ、邪魔したね。また情報が入り次第来る」
「あ・・・ああ。私の方もまた準備しておくよ・・・」
リーフが姿を消すのを呆然と見送ってシェロは少し散らばった部屋を片付ける。その手を止め、先程まで訪問者がいた場所を眺める。
何故、これ程に物悲しくなるのか考えるとより深みに嵌るような気もしていた。
リーフとウサギがどうしても良いものを生むとは思えなかった。
自分が心配しているのはウサギより友人のリーフだけれど。意外に彼の執着を見たせいで今までの『彼ならば』大丈夫と思っていた部分が崩れてしまった気がする。
「神はいないと言っていたね。でも私は祈らずにはいられない・・・。
どうか、彼らを」
見守り続けていて欲しいと。
続く。
作品名:laughingstock3-1 作家名:三月いち