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2章1   Kiara 


此処は暗い塔の繋ぎの場所。この城はかつて何もかもが揃った場所だったのだろう。図書館、礼拝堂、闘技場、そして玉座。部屋一つ一つは広く、全てに絵が掛かっている。物も全てそのままでそこに住んでいた人間だけがごっそりといなくなって代わりに不思議な機械と自分やウサギ達が這入っている。
彼らはこの広すぎる城で特定の者以外は自由に使用しているらしい。あまりに広すぎるせいか出会うことがない。
出会わないように、できているのかもしれない。
ただ此処は唯一自分が一人でいられる場だった。仕事の相方の顔を見ずに済む時間。
外は暗い。明るくなる空は多分もう見る事はできない。
外界を棄てた自分には。

チェレッタは今日も城の中へ入り、沢山の情報の紙と依頼の紙を持って定位置へと行く。そこで沢山のウサギとpielloを今日も相手にする準備を始める。この仕事は楽しい。
此処のpiello達の依頼書を普段のお茶らけた様子で覗き込んでみて、絶句した。
何故こんな依頼ばっかりしているのだろう。もっと広い色んな人間が彼らを必要としているはずなのにと。
だから外界に冗談のような箱をおいた。ポストのような物ではなく箱を。
それはひっそりといろんな場所にあり、それをチェレッタが集める。
そしてその中で彼らに回す内容を選ぶ。回さなかったものはチェレッタが処分した。どうせ回されるものもあったしできたら此処にいる彼らに見せたくない願いばかりだった。
特に自分の元へ顔を出しに来る茶髪で癖毛のお人好しの青年や灰色の二つの三つ編みで奇抜な衣装が眼を引くがいつも周囲に溶け込み、楽しそうに微笑う青年、寡黙だが進んで依頼を受けてくれる青年、そして短髪のいつも陽気な子。
彼らにこんな仕事を受けてもらいたくはなかった。
情報屋としては失格だろう。しかしそれをチェレッタは望んでいる。
他の者達にもできる限り不快な思いをしないように今日も仕事を持ってくる。
だがチェレッタでも人の想いほど測り切れるものではないのだ。良し悪しは完全に自信があるわけではない。
悪い依頼に当たったらそれなりの誠意を見せていた。それに納得しない者も確かにいた。
それに対しては周囲に紛れ込む彼の言葉を思い出すのだ。

「こんな事を言っちゃいけないのかもしれないけど、結末は僕らの采配次第なんだ。
 どんな願いであろうと僕らのやり方一つで良い方へ転ぶし悪いほうへも転ぶ。
 君は本当は依頼を選ぶ必要は無いんだと思う。
 でも君にそんなに想われる僕らは本当に幸せ者だね」

その言葉を頼りにチェレッタは仕事を続けている。
今日来るのは誰が最初だろう。鼻歌交じりに待っているといくつもある扉が一つ開いた。
こんなにギルドが開いてすぐ来るのは初めてかもしれない。

「あれ?珍しいな」

声を掛けると茶髪の癖毛の青年は軽く片手を上げた。

「チェレッタ、早いな」
「キアラどうしたんだ?こんなに早く顔出すなんて珍しいな」
「ああ・・・」

キアラは少し疲れた顔をしており、微妙に顔が強張っている。彼は此処に集まる者の中でもお人好しで有名だ。優しい人間なのだと思う。
何かあったのだろうかとチェレッタは背の高い彼を見上げ、元気を出すように笑いかける。

「キアラ、何か仕事でもやってくれねぇ?」
「仕事・・・お前の、か・・・。それなら良いかも知れない」

自嘲気味に言う彼など初めて見たのでチェレッタはますます怪訝な顔をした。

「キアラ、何か悩みでもあるのか?オレで良ければ相談に乗るぜ?」
「いや・・・いいんだ。あぁ、一つ依頼をくれ」
「さんきゅ!」

チェレッタがキアラに依頼書の紙切れを渡しているとき、扉が次々と開いてpielloやウサギ達が一気に姿を現す。その中でこちらに向かって走ってくる姿を見つけてキアラの首をそっちへぐいっと回した。

「痛って!」
「みーろよ。あの弾けっぷり!!馬鹿っぷりは健全娘がこっちへ走ってきてるぜ。本当あのミニスカで周囲に見えてねぇって本気で思ってんのかな ー?」
「聴こえてるわよチェレッタ!!大きなお世話よ!」

走ってきたエレナがそのままチェレッタに食って掛かる。後ろからのそのそと巨躯がこちらへやってきている。パパスだ。
チェレッタがキアラの首に手を置いたままだったのでエレナは今日は大人しいのだろう。普段なら一発は決められている。

「けどそう思うよなー?キアラ」

チェレッタは同意を得ようとキアラの顔を覗き込もうと背伸びしようとしたら後ろから背筋をすー・・・と撫でられ飛び上がった。

「ひぃあ!!!!!!」

それにはエレナもキアラも驚いたらしい。チェレッタが後ろを振り返ると悪戯の成功した顔でリーフと真顔のロイがいた。
どっちがやったかなど一目瞭然だった。チェレッタはキアラから身を離してリーフの方を向く。

「リーーーーーフーーーー。てめぇはオレに何か恨みでもあるのかぁ?」
「いや楽しそうだなぁって。僕も入れて欲しいな。で、ロイはそこで会ったんだけど仕事が欲しいって」
「誰がっ!!まぁいいや。畜生仕事仕事。ロイー仕事の紙はこっちな」

忙しく立ち回り始めるチェレッタの後ろからぽつりとキアラの声が後ろから聞こえた。

「此処は優しいな。俺は誰も巻き込みたくないんだ・・・」







此処は港町。風に乗って香るのは潮の香。港へ近付けば漁師達が働き、海賊達が物資を補給しにあるいはその身を休めるために立ち寄ったりしているのだろう。酒場や宿泊場が多く活気に溢れている。街の方に向かうと途端に豪勢な建物が立ち並び、城下町という雰囲気が醸し出されている。
その境目の巨大な門の上に劇団かと間違われる程派手な奇術師の格好をした青年が腰をかけていた。その側に付き従うように巨躯の燕尾服を着たウサギがいる。此処まで大きいと誰かに見られてもおかしくないのだが、それは彼らがイレギュラーな存在で容易く人に知られてはいけないからだった。
 だが二つに分かれた帽子を被り、二つの三つ編みを垂らした青年は何故か肩を落として落ち込んでいるようだった。その手には二枚の紙が握られている。
ウサギは少し首を傾げ、自分の持ってきた依頼書の間に挟まっていたらしい小さな紙を覗き込む。

<今日は奇術師とウサギにとって厄日です。ストーカーと熱烈な罠に気をつけましょう>
 
とだけ書かれていた。ウサギはそういえば、と思う。偶に依頼書に挟まっていて自分の相棒はそれを目敏く見つけて読んでいた気がする。
 普段色々な事に興味を持つことが少ない彼にしてみれば数少ない楽しみなのかもしれないと思った。今日は肩を落としてふるふると震わせている。くじ引きらしき紙を片手にもう一つの依頼書を覗き込んでみる。

「嗚呼。お前本当に面倒な仕事を・・・」

 腹立たしげに愚痴り始めた青年を見ると青年は一言、

「嫌な予感がする。今回はさっさと終わらせて帰って寝る」
 
そういってウサギの腕に軽く体重を凭れかけてくる。飛べという彼からのサインに頷き、空間を飛ぶための準備をする。
 今日は何故これ程くじ引きを気にしたのだろう。とどこかで考えながら。
作品名:laughingstock2 作家名:三月いち