laughingstock 1-2
「その方法なんですが、今僕が伝えるのは簡単です。シェロ殿が知りたいのは此処まで下りて来ない情報と外の情報という事でいいですね?」
「はい」
「僕らはその場で終わらる仕事と継続して行う仕事があるらしくて。貴方の場合後者に当たるのですよ」
「は・・・」
リーフは目を細めて微笑む。
「こういうのはどうでしょう?僕が定期的に貴方の元に情報を届けます。貴方はそれを傍受しているだけでいい」
全然構わない。むしろ願っても無いくらいだ。
pielloというのは此処まで親身になってくれるものなのだろうか。
「願ってもないくらいですが・・・私にはそれ程長い間高価な報酬は払い続けられません・・・」
「報酬は頂きませんよ」
リーフは事も無げに言う。それにシェロはまた驚き、彼の整いすぎた顔を見つめる。そして慌てて首を横に振った。
「いけません!そこまでして頂いているのに!!それでは私は私が許せません!」
シェロの剣幕にリーフはたじろいだようだった。困ったように頭というか二つに分かれた帽子を押さえて溜息をついた。
「・・・では、頂きたいときに頂くとします。それでは駄目ですか」
「はい!私にできる事なら何でも仰ってください!」
リーフは困っているようだった。しかしこれはシェロの本心だったので困られても困る。自分の身勝手な願いを叶えてくれるというのだ。
自分も何か返したいと思った。
「はぁ・・・凄い依頼人だ。とりあえずこれで契約成立です」
それでは、と言ってリーフはウサギの腕を掴んだ。あ。と思いシェロはそのリーフの袖を掴んだ。
「あ。リーフ」
リーフは顔だけこちらに振り向いてくる。
シェロは最初から思っていたことを慌てて伝える。
「私の事はシェロと。ただのシェロと。丁寧な言葉遣いもいりません。私達に上下はないのですから!」
「・・・ならば僕からもまっすぐな君に一つ。できる事なら何でもなんて迂闊に使わないほうが良い。
これ以上利用されたくないならね」
そういって二人は掻き消えた。そう跡形もなく。
休憩の終わりを告げる鐘が鳴り響いた。
こうしてシェロとpielloの縁が繋がった。
縁とは例え時代を超えたとしても続くと此処では言われていた。
外界の空間をウサギの腕に掴まったまま飛び越えながら、リーフは先程の青年を思い出していた。
pielloとウサギだと伝え、最初は驚いたものの揺ぎ無く、まっすぐな視線を注いでいた青年。
「名も無きウサギ。珍しいよね。あれ程素直で歪んでない人間が僕らを求めるなんて」
ウサギは微動たりともしない。
「本当に驚いた。最後は最も驚いた。あんな人間嫌いじゃないよ。
・・・安心した?」
くすくす笑うリーフ。その瞳は彼自身を表す様に血の様に黒く赤い。
ウサギが咎めるように顔を向ける。その顔は右目が隠されて包帯が巻かれ痛々しい。
「お前の好きなタイプだね。僕はこれから見定める。
シェロ・・・だっけ。彼を歪ませるのが僕の与える情報じゃなきゃいい事を祈るよ」
彼は一生知らなくても良い事を知ろうとしている。何故下へ情報が回ってこないのか、それは彼らに影響が出るからだ。
少なくとも良い情報のわけが無い。
しかしリーフは仕事をこなすだけだ。それが依頼人の願いである以上。
リーフが定期的に情報を持ってくると言ってからシェロはリーフとの繋がりは一度切れたと思われた。そのまま何時も通りの修道院の生活を送っていけると思っていたのだ。
「・・・何故此処にいるのだリーフ」
彼は度々シェロの前に姿を現し始めたのである。聖務の間や休憩時間、就寝前、本当に一日の色々な時間帯に現れる彼にシェロは動揺を隠し切れなかった。しかもシェロ以外の人がいない間に現れ、人が来る前に消える。
最初は監視でもされているのだろうかと思っていた。それなら納得がいったが段々暇なのだろうかという考えも浮かび始めて、瞑想が終わった後に姿を現した彼を振り返った。
「リーフ、君の役目は一体なんだい?」
「気が散った?」
「いいや。よく分からない。別に生活に支障は出ていないが君を見ると何をしているか気になる」
「人間観察」
そういってにっこり笑って姿が空間に消える。
「結果が出たら君にも教えてあげるよ」
それも自分に与えられる情報の一つなのだろうかと頭が痛くなりそうになりながらシェロは立ち上がり、2回目の3時間の聖務に戻っていった。
続く。
作品名:laughingstock 1-2 作家名:三月いち