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laughingstock 1-2

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1章2 Monk della trascrizione


忙しく人が入退室を繰り返し、机の上にある書類の量は一定から増えもせず減りもしない。入退室を繰り返すものは忙しく書類を持ってきては帰っていく。それから20分経たずにまた書類を取りに来ては忙しく走り回っている。
その部屋の持ち主は机に向かって写本を読み、一文一句間違いが無い事を確認する。あるいは届けられる写本を写し、走り回る者に渡す。
前者は写本装飾修道士に渡され、後者は写本書写修道士に渡される。
此処はアウス大聖堂。多くの修道院の最も核となる場所。修道士達は俗界を棄てることで自らを神に捧げれば、それと引き換えに、人々の罪を購うため神の慈悲を得られるという考えに基づいて行われている。
彼らの活動の一つ手写本の制作は修道院の基本的な仕事で、祈りの場である修道院は写本原典室に加えて制作するための専門的な工房を持っていた。
今人々が働き動いている場所がそれに当たる。一階に設けられ、しばしば書架が設けられていた。
彼らは修道院の創設者達の教えを忠実に伝えながら、信仰の普及活動に加わるという使命を帯びていた。
そんな彼らを写本書写修道士と人は呼んだ。
筆耕の訓練を積んだ修道士で聖書を幾度となく書き写す者。主にスクリプトリウムと呼ばれる大修道院の特別な部屋で作業する写学生であり、知識で最高峰の者達がその活動を行える。
書写修道士達をまとめる者に羊皮紙が用意され、彼らに託される前にノート状に一綴りにまとめられる。
そのような仕事が3時間続いた頃だろうか聖堂院の鐘が鳴り響く。すると一斉に働いていた者のペースが下がり、机から動かなかった者もようやく顔を上げる。

「休憩のようですね。シェロ様」

書類を整理していた者に頷くと、下がってきていた眼鏡を上げてそのまま椅子に背を預ける。
彼は写本書写修道士を束ねる者で才能を認められ、弱冠20歳を満たずにこの地位に昇進した。有能な上、率直で素直な性格は他の修道士からそれ程反感を買わずに日々を過ごしている青年だった。

「最近仕事が前より早いように感じられます。体調管理の方はなさっていますか?」
「ああ。大丈夫。最近寝付きにくいだけだから」

シェロは心配する同僚を安心させるように笑ってみせる。

「しかし・・・我らシェロ様をなくしてはこれ程上手く立ち回りできません。写本書写修道士、装飾修道士からも不満の声がなくなったところを見 ると、シェロ様が倒れてしまえば皆統率を失い、聖務に
響いてしまうでしょう。
 シェロ様が聖務に忠実なのは皆分かっています。ですので少しは休み頂きたいのです」
「・・・ありがとう」

同僚はいえ、と呟き書類の束をまとめてファイルに閉じ終えた。シェロの周囲の書類の束が瞬く間になくなるのだから本当に有能な同僚だと思う。

「此処はもういい。君は誓願前に対する修練士に教育していただろう?そちらへ行くといい」
「はい。失礼します」

同僚が姿を消してから、シェロは顔を手で覆う。
身近な者には気付かれている。しかし理由まで分からないだろう。

(このままでいいのだろうか)

同僚や自分の指示の下で働く者達を見捨てる行為をシェロは選んでしまった。できたら願いは叶わなかったら良いとも思う。
けれどもう、選んでしまったのだ。

(自分を偽ることは、できない)

何日もそれだけを悩み眠ることもままならなくなってきていたため、気を抜くと意識が揺らぎそうになるのを歯を食い縛る事で耐える。

(一聖職者がそんな甘えは許されない)

顔を洗ってこようと椅子から立った時、ふと背後に人の気配を感じた気がした。部屋には自分しかいないはずなのに。
急いで振り返ると、異様な二人組が立っていた。
一人は大きなウサギのぬいぐるみとしか言えない物、もう一人は劇団にいそうな奇術師の格好をした二つの三つ編みの青年だった。
奇術師が目を細めて挨拶の姿勢を取った。

「こんにちは。写本書写修道士長殿」
「君達は・・・どこから入った・・・?」

ウサギは立っているだけで何もしないし何も言わない。奇術師がその巨躯のウサギにもたれるように立って笑っている。

「僕らには深い問題ではないですよ」
「一体・・・何が目的だ」

一瞬、盗人を考えた。此処にある写本は創立者から受け継がれた書物だ。それを聖なる地まで奪いに来た者かと。しかし奇術師は返事に困ったようだった。ウサギが初めて動いたかと思うと奇術師の袖を引く。

「・・・依頼書をちゃんと読まないからだって?良いじゃないか。特に深い事は書いてない」

ウサギは言葉を発しないが彼らの間で意志の疎通は取れているようだった。呆然とその様子を見ていると、奇術師はそのままシェロとの間を詰めてきて、とん、とシェロの心臓の辺りを指差した。

「目的は貴方が一番知っているはずですよ。貴方が僕らを呼んだのですから。
 あ、自己紹介がまだでしたね。僕はpielloのリーフでこちらが名も無きウサギ。
 貴方の依頼、受けさせていただきました。これからよろしくシェロ殿」

シェロは口を開いたまま、後ろへ後ずさろうとして椅子が背に当たった。その感触で夢では無い事を知り、奇術師とウサギを交互に見つめる。

「君達が・・・噂の・・・」
「噂?」
「悪魔の遣いだとか人の救いだとかいう・・・」

それを聞いてリーフと名乗った奇術師はあははと笑った。本当に可笑しかったようだ。
それだけ見ると普通の青年のように見える。シェロはほんの少し緊張を解いた。

「けれど、私は貴方達が悪魔の遣いとしても・・・願いを叶えたかった。だから、送った」
「ま、聖職者の貴方が僕らに送るほどだ。余程の覚悟があったのでしょうね」

リーフの言葉は案じるものだが、その感情や蔑みなど含まれない平坦な声だった。それに安心してシェロは額を押さえる。

「初めに言っておきたい。私は君達に手紙を送ったことで最後の審判に期待はしていない。だからこれは保身のためでもない。
 神を愛する気持ちも変わらない。仕事そのものに文句はないが疑念を持っている」
「疑念?」
「私達写本修道士は同じスクリプトウムで徒弟時代を送り、そこで皆死を迎えている。
 外界からの情報は入ってこないが上層部は何か落ち着きが無い。
 俗界を棄てるのが基本的な姿勢。それを守り続け、宣教などに行った者以外外界と繋がりも無い。
 だが、その者すら言葉を瞑る。
 何が起こっているのか私達には知ることはできない。
 だが、私は知りたい。
 禁を破ってでも知りたいと願う。しかし此処の者は皆私を慕い、何の罪も無い。
 もし私のせいで他の者も罰されてしまえばと思うと償いきれない。
 どうか、私の願いを叶えて欲しい。」

そういって頭を下げるシェロの頭上にリーフの声が降り注ぐ。

「そんな事しなくても叶えますよ。それが仕事ですから」
「・・・ありがとう」

顔を上げると彼らはどこか思案しているようだった。ウサギさえも何か思案しているように見えるので不思議だ。
リーフはウサギに何か語りかけ、それに対してウサギが頷く。
シェロは何をするともなくその姿を見ているとくるりとリーフがこちらを向いた。
作品名:laughingstock 1-2 作家名:三月いち