laughingstock
その公的な組織網は(司)教区、小教区、修道院と呼ばれている。
教皇とは教会の最重要人物。世俗の権力者、とりわけ国王達に自らの権威を認めさせるべく、たえず闘わなければいけなかった存在である。歴代国王などは自ら庇護下にある聖職者を大小の修道院長に指名しながら、後者が新しい司教の選出に際して果たす、しばしば決定的な役割を何ら斟酌しようとしなかった。
キアラの話によると特に教皇と皇帝の間で聖職者の叙任権を争っているらしい。
当初は世俗領主による教会授与行為、のちによる国王による司教・大修道院長任命、司教叙任権が問題視されていることなどが聞かされた。
「下は大混乱だ。特に権力者と高位聖職者はな。もっと下は知らされてもいないがやはり上がざわつくと下にも影響が出る。つまり物騒な物取りや 暗殺とかも今は普通に行われているって事だ。
エレナがチェレッタの所に来たのも依頼人がその辺りかららしい」
「ふぅん」
「ちなみにそんな後味悪い依頼なら山ほどきてるぞ。俺達の上司もそんなのばかり回してくるからな」
「という事はキアラがそれ程情報を持っている。キアラもその仕事って事?」
そういうとキアラは癖毛の髪をがしがしと掻いて頷く。
「ご名答。手が足りないんだろうな。お前さんもそうなんじゃないのか?上層部がお気に入りのお前を起こすくらいだもんな」
「お気に入りだなんて、僕は結構昼行灯だから使われないだけだよ」
「それも言えてる」
にっと笑い、じゃあなとキアラは人込みの中へ消えていった。
リーフがチェレッタへ視線を向けるとエレナが情報をもらってこちらへ戻ってくるところだった。
「あれ?キアラは?」
「もう行ったよ」
「もう!アイツは~!!」
エレナは憤慨して見せてからリーフに向き直って呆れた視線を向ける。
「やっぱ…アンタもアンタでいつもながら格好が派手ねぇ」
「そうかな?」
服を引っ張ってみてもどうなるわけではないが、お気に入りの服だ。首を傾げて視線を戻すと額を押さえるエレナの姿が目に入る。
エレナの服はすっきりとしているが露出が多い。逆にリーフは自分の身体を見せている場所は首と顔だけだ。
「エレナの方が目を引くとは思うよ」
「~~!!いつもながらアンタは~!もう、良いわよ」
疲れたように一人で騒いで肩を落とすエレナを可笑しそうに見つめる。エレナの中に怒りの感情は無い。ただ、これはいつもの挨拶だ。
「じゃ、私は行ってくるけど。気をつけてね。世の中は物騒だから。あんたみたいな人に合わせてる奴はいつ誰に寝首掻かれるか分かんないんだからね!」
「分かったよ。またね、エレナ」
エレナとパパスを見送ってさっきまで側にいたが話しかけなかったもう一人のpielloの存在が消えていた事に苦笑する。
それはいつもの事だったがチェレッタに一応問う。
「ロイは?さっきまで此処にいたのに」
「リーフがキアラを見送った時にもういなかったぜ。アイツはそういう奴だろ」
それはそうだと納得してリーフもチェレッタに別れを告げ、ウサギの元へ戻る。途中、色々な同僚に声をかけられたがそれをかわしながら向かうとウサギは最後に見た姿から微動たりとも動いていない。
リーフは彼の大きな首元を結ぶネクタイを引っ張った。
「仕事は何?」
ウサギの懐から出てきたのは一枚の紙。それを手にとって眺めるとはい、とウサギに返す。
そのまま彼の大きな腕に自分の腕を巻きつける。
「さぁ行こうか名も無きウサギ」
続く。
作品名:laughingstock 作家名:三月いち