laughingstock
1章 1 leaf
灯が遠い場所へ一つずつ点いている廊下は足元を照らす意味を成していない。しかしそこを恐れもせず迷いなく歩く者がいた。彼は巨体にウサギの姿をしていた。赤い瞳に右の耳に包帯を巻いて燕尾服を着て、手の中に沢山の鍵の付いた輪を持っていた。
廊下は窓が至る所にあったが外は完全な闇だった。月すらも出ていない。
遠くでさぁぁぁと雨の降る音がする。
やがて目前に大きな広間の扉が見えて、彼の者は沢山在る鍵の中で迷わずにその扉に差し込む鍵を選び差した。
ぎぃぃと鈍い音を立てて扉が開くと、そこには何十人もが食事ができ、踊れそうな広間。彼は暖炉の側へ行き、壁と思われる場所の穴に鍵を差し込む。そして現れた階段を下りた。
そこは異様な風景だった。
向かって右側には牢が並ぶのに左側は幾つもの柩が並んでいた。柩の中へ続くようにチューブが差され、機械が絶えず音を立てて動いている。
外で生きる者達でも此処まで技術の進歩を果たしているのはほんの一握りだろう。
それ程に外の格差は大きいのだ。
彼の者はそれらに見向きもせずに真っすぐ突き当たりの扉に進む。扉を開けるとそこは美しく飾り付けられた柩が部屋中びっしりと置かれていた。
その中で装飾が透けて中が見える幾つかの柩の中から一つへ迷わず進む。
透きとおる硝子柩の中では青年が一人目を閉じて液体の中に沈んでいた。灰白色の髪は色素が薄いため周囲の色に染まっている。
長い二つの三つ編みはふわりと揺れている。衣装は奇術師と言っても良いほど派手な姿だが漆黒であるためまるで悪魔の使いのようにも
人は思うだろう。何より彼の特徴は右目の周囲に描かれた草の蔓と赤の混じった文様だった。
彼の両手首はベルトで締められ、首には首輪。首輪の先から鎖が見え、その鎖は両手首のベルトと両足首のベルトに繋がり、最終的に柩の一部と繋がっていた。
完全な拘束されている姿を彼の者は見つめ、おもむろに鍵の中でも草の蔓が絡みついたような文様の鍵を取り出した。
硝子柩の外側に唯一ついている鍵穴。それは鍵を受け入れるとカチャリと音を立て、開いたことを告げる。
蓋を押し上げると硝子柩の中をいっぱいに満たしていた液体は空気に触れたところから気化していく。
彼は青年の拘束を全て外し、上体を起こす。青年の後ろ頭に小さな螺子がついているのが見え、彼はそれを器用に回した。
そうすると青年は億劫そうに目を開き、彼の顔を見上げてとても魅力的に笑った。
「おはよう名も無きウサギ。今日はどんな仕事?」
青年ーリーフの属する機関は、世界の何処にも属していない機関だった。何故このような機関があるのか彼は知らないし興味も持たなかった。
リーフは黙々と仕事をこなすために在る。
そんな彼の職はpielloと呼ばれるもので、人の願いを聞き入れにいくのが仕事だった。そして仕事先には常にウサギがついてくる。
ウサギも職の名前で螺子を巻き、仕事先に来ても何もしないが仕事先から帰る時や場所移動の時に空間を飛べる事で徒歩の必要が無い事しか
何の仕事もしていない。
リーフの元に仕事を持ってくる相棒の役目を果たしているのがそのウサギという職の中の一匹だった。
彼らには名前がないし、ぱっと見ると皆同じ顔なので見分けが付かない。偶にアクセサリーを付けている者もいたり他の名で呼ばれている者を見かけるが、言葉を持たない彼らと意思疎通できる相棒のpielloが勝手にやったか同意の元で他と区別するために行ったかだろう。
リーフは相棒の彼の事を「名も無きウサギ」と呼んだ。
その彼と共に上階へ上がるとそこは賑やかにpielloとウサギが集っているギルドへ続いていた。
そこで仕事の確認や同僚と情報の交換をするのだ。ウサギはリーフの袖を引くと、部屋の西にある扉を差す。
そこで待っているという事なのだろう。
「分かったよ。僕が行って来るから大人しくしてて」
そういうと性格も寡黙らしいウサギは扉へ歩き出した。
リーフはそれを見届け、周囲を見渡す。
するとこちらに黒髪の青年が手を振っていた。
「リーフ!起きたのかよ。こっちこっち」
「チェレッタ」
側へ行くとチェレッタは沢山の小さな紙切れを持って数人のpielloとウサギ相手に商売をしているようだった。
「リーフも買わねぇ?良い情報あるよ。何なら仕事の方でもいーけど」
チェレッタは情報屋で上層部からの依頼以外の仕事を持ってくる。または外界の情報はpiello達に売り、彼らをサポートするのが仕事だ。
pielloの中には人間も多くいるが、外界で生きるには危険が高いため、此処で生活をしている。
つまり外界からの情報に疎くなるのだ。人相手の仕事のpielloは世間知らずでは危険を伴う。どんな依頼が来るか分からないので自分の
命を護る為にも情報は必須だった。
そしてチェレッタの人となりの良さと明るい性格はpiello達にもウサギ(多分)にも好かれていたし、彼の仕事はそれ程後腐れのないものばかりであったため、皆が善意で行い、チェレッタがその分の報酬を払っていた。
リーフはウサギの方に視線を向けてから、少し考え込むようにする。
「うん。でも今はやめておこうかな。実はまだ誰からでどんな仕事か聞いてないんだ」
「何で?お前、オレのところに来る必要ないじゃん」
口を尖らすチェレッタにごめん、と言って謝っていると人込みを掻き分けて2,3人のpielloが姿を表す。
「リーフ、起きたの?」
どの相手もリーフの顔見知りの同僚だった。自分と同じ者、人間と種族はばらばらだがよくこのメンバーで情報交換をしている。彼らに軽く手を振って意志を示すとその中で唯一の人間の女性がウサ
ギと共にチェレッタの元へ駆け寄ってくる。
「チェレッタ、情報を頂戴。聖職者相手の依頼なの」
「エレナ、それにパパスも一緒なんだな」
エレナがpielloの同僚で短髪のボーイッシュな女性だ。その相棒のウサギをパパスという。パパスはエレナと同じくらいチェレッタに懐いており、露骨な愛情表現を示す。
「ぅわ!パパス!!そのでかい図体で抱きついてくんな!」
チェレッタもなんだかんだいってパパスとじゃれながら楽しんでいる。リーフたちはそれを見て笑う。
「リーフ、起きてくるのは久し振りだな」
もう一人の人間のpielloのキアラは茶髪の癖毛の青年だ。少し垂れ目な自分の目と癖気を気にしている気の良い男だ。
「そうだっけ…?寝てる間は分からないから、時間の感覚が分からないんだ」
「そうだろうな。だが、お前が寝ている間にだいぶ情勢が変わったぞ。チェレッタに聞いておかなくてもいいのか?」
「じゃぁキアラ、僕に教えてよ。今起きたばっかりでお金全然持ってないんだ」
そういうと両手をおどけて広げて見せた。すると頭というか二つに分かれた帽子を触られた。キアラは基本的に面倒見が良く、その茶髪の癖毛で笑うと幼く見えるが25歳前後だったはずだ。
「相変わらずだな…まぁ仕方ない。今一番の問題は代替わりの時期なんだ。教皇と皇帝の」
教会の権力像は厳格な教皇権威の下に司教や大修道院長、教会参事会員、(村)司祭、助祭などが霊的・現世的空間を共有
灯が遠い場所へ一つずつ点いている廊下は足元を照らす意味を成していない。しかしそこを恐れもせず迷いなく歩く者がいた。彼は巨体にウサギの姿をしていた。赤い瞳に右の耳に包帯を巻いて燕尾服を着て、手の中に沢山の鍵の付いた輪を持っていた。
廊下は窓が至る所にあったが外は完全な闇だった。月すらも出ていない。
遠くでさぁぁぁと雨の降る音がする。
やがて目前に大きな広間の扉が見えて、彼の者は沢山在る鍵の中で迷わずにその扉に差し込む鍵を選び差した。
ぎぃぃと鈍い音を立てて扉が開くと、そこには何十人もが食事ができ、踊れそうな広間。彼は暖炉の側へ行き、壁と思われる場所の穴に鍵を差し込む。そして現れた階段を下りた。
そこは異様な風景だった。
向かって右側には牢が並ぶのに左側は幾つもの柩が並んでいた。柩の中へ続くようにチューブが差され、機械が絶えず音を立てて動いている。
外で生きる者達でも此処まで技術の進歩を果たしているのはほんの一握りだろう。
それ程に外の格差は大きいのだ。
彼の者はそれらに見向きもせずに真っすぐ突き当たりの扉に進む。扉を開けるとそこは美しく飾り付けられた柩が部屋中びっしりと置かれていた。
その中で装飾が透けて中が見える幾つかの柩の中から一つへ迷わず進む。
透きとおる硝子柩の中では青年が一人目を閉じて液体の中に沈んでいた。灰白色の髪は色素が薄いため周囲の色に染まっている。
長い二つの三つ編みはふわりと揺れている。衣装は奇術師と言っても良いほど派手な姿だが漆黒であるためまるで悪魔の使いのようにも
人は思うだろう。何より彼の特徴は右目の周囲に描かれた草の蔓と赤の混じった文様だった。
彼の両手首はベルトで締められ、首には首輪。首輪の先から鎖が見え、その鎖は両手首のベルトと両足首のベルトに繋がり、最終的に柩の一部と繋がっていた。
完全な拘束されている姿を彼の者は見つめ、おもむろに鍵の中でも草の蔓が絡みついたような文様の鍵を取り出した。
硝子柩の外側に唯一ついている鍵穴。それは鍵を受け入れるとカチャリと音を立て、開いたことを告げる。
蓋を押し上げると硝子柩の中をいっぱいに満たしていた液体は空気に触れたところから気化していく。
彼は青年の拘束を全て外し、上体を起こす。青年の後ろ頭に小さな螺子がついているのが見え、彼はそれを器用に回した。
そうすると青年は億劫そうに目を開き、彼の顔を見上げてとても魅力的に笑った。
「おはよう名も無きウサギ。今日はどんな仕事?」
青年ーリーフの属する機関は、世界の何処にも属していない機関だった。何故このような機関があるのか彼は知らないし興味も持たなかった。
リーフは黙々と仕事をこなすために在る。
そんな彼の職はpielloと呼ばれるもので、人の願いを聞き入れにいくのが仕事だった。そして仕事先には常にウサギがついてくる。
ウサギも職の名前で螺子を巻き、仕事先に来ても何もしないが仕事先から帰る時や場所移動の時に空間を飛べる事で徒歩の必要が無い事しか
何の仕事もしていない。
リーフの元に仕事を持ってくる相棒の役目を果たしているのがそのウサギという職の中の一匹だった。
彼らには名前がないし、ぱっと見ると皆同じ顔なので見分けが付かない。偶にアクセサリーを付けている者もいたり他の名で呼ばれている者を見かけるが、言葉を持たない彼らと意思疎通できる相棒のpielloが勝手にやったか同意の元で他と区別するために行ったかだろう。
リーフは相棒の彼の事を「名も無きウサギ」と呼んだ。
その彼と共に上階へ上がるとそこは賑やかにpielloとウサギが集っているギルドへ続いていた。
そこで仕事の確認や同僚と情報の交換をするのだ。ウサギはリーフの袖を引くと、部屋の西にある扉を差す。
そこで待っているという事なのだろう。
「分かったよ。僕が行って来るから大人しくしてて」
そういうと性格も寡黙らしいウサギは扉へ歩き出した。
リーフはそれを見届け、周囲を見渡す。
するとこちらに黒髪の青年が手を振っていた。
「リーフ!起きたのかよ。こっちこっち」
「チェレッタ」
側へ行くとチェレッタは沢山の小さな紙切れを持って数人のpielloとウサギ相手に商売をしているようだった。
「リーフも買わねぇ?良い情報あるよ。何なら仕事の方でもいーけど」
チェレッタは情報屋で上層部からの依頼以外の仕事を持ってくる。または外界の情報はpiello達に売り、彼らをサポートするのが仕事だ。
pielloの中には人間も多くいるが、外界で生きるには危険が高いため、此処で生活をしている。
つまり外界からの情報に疎くなるのだ。人相手の仕事のpielloは世間知らずでは危険を伴う。どんな依頼が来るか分からないので自分の
命を護る為にも情報は必須だった。
そしてチェレッタの人となりの良さと明るい性格はpiello達にもウサギ(多分)にも好かれていたし、彼の仕事はそれ程後腐れのないものばかりであったため、皆が善意で行い、チェレッタがその分の報酬を払っていた。
リーフはウサギの方に視線を向けてから、少し考え込むようにする。
「うん。でも今はやめておこうかな。実はまだ誰からでどんな仕事か聞いてないんだ」
「何で?お前、オレのところに来る必要ないじゃん」
口を尖らすチェレッタにごめん、と言って謝っていると人込みを掻き分けて2,3人のpielloが姿を表す。
「リーフ、起きたの?」
どの相手もリーフの顔見知りの同僚だった。自分と同じ者、人間と種族はばらばらだがよくこのメンバーで情報交換をしている。彼らに軽く手を振って意志を示すとその中で唯一の人間の女性がウサ
ギと共にチェレッタの元へ駆け寄ってくる。
「チェレッタ、情報を頂戴。聖職者相手の依頼なの」
「エレナ、それにパパスも一緒なんだな」
エレナがpielloの同僚で短髪のボーイッシュな女性だ。その相棒のウサギをパパスという。パパスはエレナと同じくらいチェレッタに懐いており、露骨な愛情表現を示す。
「ぅわ!パパス!!そのでかい図体で抱きついてくんな!」
チェレッタもなんだかんだいってパパスとじゃれながら楽しんでいる。リーフたちはそれを見て笑う。
「リーフ、起きてくるのは久し振りだな」
もう一人の人間のpielloのキアラは茶髪の癖毛の青年だ。少し垂れ目な自分の目と癖気を気にしている気の良い男だ。
「そうだっけ…?寝てる間は分からないから、時間の感覚が分からないんだ」
「そうだろうな。だが、お前が寝ている間にだいぶ情勢が変わったぞ。チェレッタに聞いておかなくてもいいのか?」
「じゃぁキアラ、僕に教えてよ。今起きたばっかりでお金全然持ってないんだ」
そういうと両手をおどけて広げて見せた。すると頭というか二つに分かれた帽子を触られた。キアラは基本的に面倒見が良く、その茶髪の癖毛で笑うと幼く見えるが25歳前後だったはずだ。
「相変わらずだな…まぁ仕方ない。今一番の問題は代替わりの時期なんだ。教皇と皇帝の」
教会の権力像は厳格な教皇権威の下に司教や大修道院長、教会参事会員、(村)司祭、助祭などが霊的・現世的空間を共有
作品名:laughingstock 作家名:三月いち