千切れた旗
桟橋の終わり、港に敷き詰められた煉瓦との境目で、リレーつばめが振り返った。
「ひとが多くなります。わたしにもう少し寄っていただけませんか」
つばめの容姿は目立つ。覆い隠すことはできないが、せめて一部だけでも黒尽くめの男の陰に隠れるように、リレーつばめはつばめに傍に寄ることを求める。
「わかった」
こみ上げるものを抑えつけ、少年は男の隣りで歩き始めた。
視線を脇へ逸らせばすぐにリレーつばめの肩。見上げずともよいくらいに身長差は縮んだが、比例して遠ざかったものもある。
それが何か、つばめは名を知らないけれど。
港湾地区を抜ける直前に背後を振り返った。
高い棒のてっぺんで、千切れた旗は風に舞っている。曇天に溶け入りそうな旗は、しかし溶けはせずたなびくだけだ。
完全な姿で舞うわけでなく、風に散り消えるわけでもなく。
千切れた旗は自分のようだ。
いまでさえ色褪せたあの旗は、遠からず新しいものと取り替えられるのだろう。
もはや日を数えるまでになったその日には、眼前の背中のことなど忘れ去ってしまえたらいい。