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オレたちのバレンタインデー

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 その目に光るものに気付いて、オレははっとした。こいつは悟っている、自分たちの敗北を。諦念。オレがつい先程必死で求めたものを、いともたやすく手に入れている。
 Iは、それでもしばらくオレとOを睨みつけていたが、やがてがくりとくずおれた。
「……っ、嫌だあぁ。ぼくはっ……いつももらえないで、他の奴らをねたんでばかりで……もうっ、そんなの嫌だあああ」
 鳴咽をもらすまいとして堪える鋼鉄の糸を引くような叫びが、延々続くかにみえる。オレは苛々した。渾身の力を振り絞ると、体がプリントから解放され、Iの襟首を掴んだ。
「弱虫のへっぴり腰だな、あんたは」
 声が止まった。
「妬ましいと思うなら、チョコが欲しいと思うなら、どうして努力しないのだ。オレなんかかっこよすぎるから遠慮されちまってもらえないんだぞ。そんな状況よりは一億倍もマシだと思え!」
「それは絶対違う」
 なぜか全員に突っ込まれた。嫉妬しているのか。ふっ、オレはなんて罪な男なんだろう。
「とにかく、努力だ。努力もせずに他人をねたむ奴はただの馬鹿だ。とりあえず、まずは床屋に行って頭角刈りにしてもらえ」
 襟を放すと、糸が切れたようにIは倒れた。
 ……終わった、のか……。
「個人の自由よね、バレンタインなんて。そう、日本国民の自由だわ」
 頭上で声がした。K子だ。
「あたしたち、ひどい勘違いをしてたみたい」
「勘違い?」
 オレは訊いた。しかしK子は安心したような、それでいて怒っているような表情で笑っているばかりだ。
「あんたの分のチョコ、幾つか入ってるから、みんなで分けて食べましょ。あ、Oくんは彼女からのやつね」
 包みを開ける音がした。
 広がるカカオの香り。目の前にどさりと箱が落ちてくる。小振りのハート型チョコだ。
「は〜い、あーんして」
 K子の眩しい笑顔が、オレに迫った。赤面して目をつぶり、素直に口を開ける。
「あ〜〜〜……ん?」
 ……チョコの感触がない。
 目を開ける。と、K子はなんと、Iの口にチョコを入れていた!
「なっ……ぬわあぁにしてんだK子おおぉ!!」
 頭に血が上り、オレはK子ともども殴り飛ばしたい衝動に駆られた。握り拳にはーっと息を吹きかけていると、K子がこちらに軽くウインクした。
「?」
 気合いが抜けた。
 数秒の空白ののち、
「ぎやあああ――――!!!!」