オレたちのバレンタインデー
2 女の意地―K子
またこの季節が来た。
あいつは今年も、馬鹿みたいに女子からのチョコレートを期待しているのだろうか。
曇りがちの夕暮れの空を、カラスの親子連れが横切った。頭上の古い電灯がバチバチ言っている。部活の皆と一人方向の違うあたしは、自転車を押して賑やかに校門を出ると、突然無口に変身する。
――そうよ、そうに決まっている。毎年あのルックスとあの性格で、ご苦労なことだ。
今年からはもう学校も違うから、幼なじみのよしみでチョコをやるなんてことはしなくていい。やったね、なんていう解放感。
女子校のバレンタインって、いったいどんななんだろうと同時に考える。やっぱり嵐のようにチョコが飛び交うのだろうか。友チョコというやつが。そういえば、あいつに作るのにいまいましくも夢中になって、友チョコなんてのは作ったことも、お目にかかったこともない。
でも、こんなふうにあいつのこと考えてるからって、イコール好きなのではない、決して。
んなことを考えていたら、狭い道で、横をすっと通り抜けようとする学ランがいた。
あっ、あいつだ。
「ちょっと」
幼なじみのよしみで一応話し掛ける。あいつはなんだかひどく強張った顔で振り向いた。
「なんだよK子」
久々に会ったというのにつれない返事だ。
少し意地悪したくなって、薄笑いを浮かべて不細工な顔を見つめた。
「ねえねえ、知ってる? もうすぐバ」
「わ――――――っっっ」
なぜか慌てて遮る。唾が思いきり飛んできた。
「な、何叫ぶ必要があんのよっ」
思わず声を荒らげると、あいつは我に返ったように目をぱちくりさせた。
「あ、……すまん。なんでもない。それで、なんだっけ?」
この時期にもうすぐって言ったらバレンタインでしょ。少なくともこいつとあたしの間では去年までずっとそうだった。忘れちゃったのかしら……。も、勿論淋しくなんかない。お荷物が自分から消えてくれてよかった。
「それよりもK子、もうすぐ、その……」
自分で駄目にした話題を自分で蒸し返してきた。意味が分からない。
あたしはかなりいらつきながら答えた。
「何よ、……もうすぐバレンタ」
「ぬおぉお――――――――っっ!!」
また遮られた。もうっ、いい加減にしてよっ。
作品名:オレたちのバレンタインデー 作家名:貴志イズミ