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オレたちのバレンタインデー

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11 愚痴と疑問―オレ


「しかし、未だ計画打倒の見通しがつかないとは……」
 廊下に出ると、オレはため息をついた。
 ――あの時の演技は、我ながら大したものだったと思う。そのおかげで、オレたちは見事Iの懐に飛び込めたのだから。
 勿論、オレがアンチ・バレンタインデーに賛成するわけがない。毎年楽しみにしている行事だ。オレに渡す勇気がなく泣き寝入りする女ども。そうかといえばモテるオレを羨む男ども。あれ程痛快なことはないだろう。
「もう、諦めるしかないよ」
 Oが首を振る。
「とにかく助かったんだ。それに、君はK子さんのを断ったし、僕も女の子に見つからないよう通学路を変え、期間中は塾にも通わない。これで充分だろう?」
「いやだ」
 充分なものか。確かに、以前はそれでいいと思っていた。だがよく考えてみろ。同じ生徒からの圧力ごときで、青春の楽しみをむざむざ捨てられるか。それにブラックリストに名前を書かれた他の男どもも憐れでならない。
「今日は街中に親衛隊が配備される。副会長の周囲はがら空きだ。Iを討つ空前絶後のチャンス!」
「今にも本部に殴り込みそうな勢いだね」
 Oが呆れたように呟いた。
「君も先日親衛隊の一員になっただろう。持ち場を抜け出したらひどい目に遭うぞ」
 うむ。しかも、なんだか知らないが、あの不細工五人組と共に親衛隊の一個中隊隊長に任ぜられてしまった。
「有志の五人が、君を是非同列に置きたいと、切願したそうだよ」
 なぜだ。
 ……まあ、とにかく。Oの発言にも一理ある。下っ端の一人や二人、いなくなっても気付かれないだろう。だが、隊長が、となると、大分事情は異なってくる。
「非常に厳しい状態だね。手下も相当な金額で雇われてるから、そうおいそれと君の脱出を許すとは思えない」
 ぬうぅう。なんと八方塞がりな……。
 予鈴が鳴り始めた。Oとオレはなんとなくいたたまれない気持ちのまま、教室に戻った。
 授業中、消しゴムを弄びながら考える。
 そもそも、バレンタインデーを待ち遠しく思わない日本人男性はいるのか。そりゃ、外国の下手な猿真似だとか、そういう批判はなくもない。だがそれでも我々の習慣として、ひそかにどこかしら期待しているのではないか。俗だとか、そんなことは言い訳に過ぎない。副会長らも結局、己がもらえないゆえにもらえる者をひがんでいるだけなのだ。