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世界はひとつの音を奪った

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 「ま、好きなものを着たいように着てるのがこの街の人さ。君はちっともおかしくない。寧ろいい子じゃないか」
 「…そ、そんなことないですけど…やっぱりボタン外そうかなぁ…」
 「好きにしたまえ」
 なんだかほのぼのとする少年は、第一ボタンだけを外した。
 …全部外すわけじゃないところが可笑しかったが、あまりからかうのも悪い気がしてきたので黙っておく。
 カバンの中にあったネックレスを一つ、少年は手に取った。
 クローバーをガラスの中に入れた、小さな飾り玉のやつだ。

 …なんだか似合うな。

 このカバンを覗く人は、その雰囲気に似合うものを選んでいく。
 まぁ、好きなものを身に纏うんだから、似合うものを選ぶに決まっているのだが。
 のんびりほのぼのしたこの少年が、そのネックレスを選ぶのは、妙に微笑えましい。

 「気に入った?」
 「え?…あ、綺麗ですね。」
 正直、それはどちらかというと女性向なのだけれど、この女の子だか男の子だかよく分からない少年にはなんとなく似合っている。
 「あげるよ。」
 「え!?」
 何気なく言った言葉に、少年はまた驚きの声を上げた。
 …いや、正直無意識に僕も言っていたので、自分でも驚いたけどね、ほんの少しだけ。
 「んー…なんか君面白かったからね。」
 「ええええ、え、でも、売り物でしょう!?」
 「売り物だけど、…あ、んじゃまた来ておくれよ。贔屓にしてもらって、次回はちゃんと買ってくれればいい。」

 あれ。
 何を僕らしくない。
 別にそこまでこの少年にサービスをする必要はなくないか?
 せめて半額でももらえばいいじゃないか。そんなに高いものじゃないし。

 そんな思考が僕の頭によぎった。
 が、言ってしまったものはしかたない。
 目が笑えていないのは十分承知だが、表情だけはやさしそうなお兄さんを演じていた。

 「ありがとう!!!」

 少年は、初めて笑った。
 彼の背中から太陽の光がさしていて、眩しい。 

 違う…彼の無邪気な笑顔に、久しぶりに人間のいい面を見れた気がした。
 嗚呼、こういう笑顔は大好きだなぁと…ぼんやりと思った。