世界はひとつの音を奪った
サトルという少女
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
僕はバーカウンターでだらしのなく情けない声を出して突っ伏していた。
目の前のビールに映る自分の、そりゃもう情けない姿ときたら。
しかし自己嫌悪は消えることもなく、時折涙が出そうになった。
「…そりゃぁ、…ご苦労さん。」
僕の隣には、キャミソールにミニスカート、ショートボブヘアーにいくつもビーズをつけた女の子が座っている。
彼女が飲んでいるのはカクテルに見えて実はトマトジュースだ。
「僕…ほんと、もぅ…自覚してるけど、なんでこぅ…」
「で。その家出少年は?」
「…うぅ。とりあえずちゃんと駅に送りましたよぅ…?あー、もぅ嫌。」
「なにがー?」
「…最低な事言った。」
「そう?大人としてはまともなことじゃない?」
「僕が言えた台詞じゃぁないもん…。何が偉そうに、帰りなさい。だよもぅっっ!」
わぁぁ…っと泣き突っ伏す。
丸い僕の背中を、彼女はポンポンと叩き慰めてくれる。
「いやいや、それでもよく言ったよ。ノイズ君はがんばった!」
「サトルくぅぅぅんっっ!!」
僕は彼女の、幼い顔にはもったいない豊かな胸に泣きすがった。
なんという役得。
作品名:世界はひとつの音を奪った 作家名:黒春 和