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Future Star

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彼は呆然と私と私の手にあったグラスを交互に見ていた。
私はただ衝動に任せて、走って会場を飛び出した。
ただでさえ走ることなんて滅多に無いのに、ヒールを履いているせいで上手く走れなくて何度も躓きそうになる。
背後から、我に返ったらしい婚約者の叫び声や人々の罵声、「逃がすな、追いかけろ」という命令が飛び交っていた。
ヒールが脱げ、みっともないと思ったけれど、それでも私はここで捕まるわけにはいかない。
通った道の照明を消し、ドアを閉めてひたすら逃げる。
真っ暗な廊下や不自然に閉まったドアは、広い屋敷で人を捜索するのにとても不利なことを私は知っていた。
家の外までの道はきちんと記憶していたので、すぐに家の外に出た。
一連の努力が功を奏したのか、私はまだ屋敷の中にいると思っているのか、追ってはまだ来てはいなかった。
昼間は門にいた警備員が一人もいないことからも、おそらく後者だろう。
門は私の家のとは違ってシンプルで変わった形をしていたので頑張れば、乗り越えられそうだった。
とりあえず上まで上り、降りようとしたところで着地に失敗した。
足首に激痛がはしっても、ドレスの裾が破けても立ち止まっている暇はない。
駅へ向かうまでの途中、運良く見つけた質屋に飛び込んだ。
老齢の店主に私は、一切迷うことなくスチュアート王家の紋章が刻まれたペンダントを差し出した。
これで私は完全に家を捨てたことになる。
思えば、覚悟なんてもうずっと昔、鈴音さんに想いを告げたときからしていた。
決められないと言っておきながら、答えは既に出ていたのに。
私は何を迷っていたのだろう。
眼鏡をかけ、じっと鑑定をする店主の判断を待つ。
純金なので、もし本物だと気づかなくてもそれ相応の値段で買ってくれることは予測していた。
彼は、暫く考え込んだ後、私の顔と姿を見て、息を呑む。
私がどこの誰で、私が何を決意したのか理解したようだった。
それは私にとっては予想外でどうすべきか分からなり、彼が次の行動に出るのを待った。
彼は、黙って店の奥に入って行き、一分しないうちに戻ってきた。
分厚い封筒とハンガーに掛かった洋服を手にして。
封筒の中から札束が覗いていた。
持って行きなさい、と彼は私にしわがれた声で言った。
それから服は着替えていった方がいい、昔、私にもお前と同じくらいの年の娘がいたんだよ、と言った。
彼の声は震えているように聞こえた。
私は丁重にお礼を述べ、彼が指差した店内の隅にあるドアを開け、部屋で着替えさせてもらう。
彼が出してきた服は、流行を問わない飾り気の無い絹のドレスで私の身体にぴったりと合った。
せめてものお礼にと、私が着ていた服は置いていくことにする。
破れた箇所もあるので、そのまま売ることは出来なくても、生地だけでもそれなりの価値はある。
服を着替えた私を見て、彼は私が亡き娘にそっくりだと言って涙を見せた。
全てを知られたと思ったのは私の早とちりだったのかもしれなかった。
彼は私に気を付けて出掛けるように何度も言い、タクシーまで呼んでくれたので、フランス
車の中で、どうかもう一度だけ、鈴音さんに会わせて下さい、と夜空を見上げて星に祈る。
私が鈴音さんを探すための手がかりは一つしかなかった。
私と鈴音さんを繋いでいる唯一の絆。
タロットカードを取り出し、かつて必死になって覚えた星を見ながら、タロットカードと照らし合わせて占っていくと、ある方角と数字に辿り着いた。
それを元に考えられる彼女の行動を具体的に推測する。
方角は行き先、数字は時間に化けた。
あとは彼女自身が占いに沿って行動してくれていることを願うだけ。
指定した駅で降ろしてもらい、フランス行きの切符を買う。
電車の時刻は私が占ったものに最も近いものを選んだ。
ホームで電車を待つ時間はとても長かった。
危険な賭けだということは十分承知していた。
十分近く待った後、電車はホームに滑り込んできた。
もう、これに乗ってしまったら、私は家に続き、故郷も捨てることになる。
ここでも私は迷わなかった。
全てを捨ててでも、伝えたいこと、スチュアートとしてではなく、レアという私個人として生きる道を私は自ら選んだことを、目の見えない彼女に伝えたかった。
電車に乗り込み、彼女の姿を探した。
でも、どこまで歩いても彼女の姿は見つからないまま、とうとう最終両まで来てしまった。
もし、ここに彼女の姿がなかったらどうしよう、と不安になったとき、真横の座席から腕を引っ張られた。

「Where do it go, and the princess.(どこへ行くの、お姫様?)」

声の主は私が全てを引き換えに選んだ、運命の相手だった。
私は答える。

「with you also of where.(あなたと共に、どこまでも。)」

彼女の隣の席は、当たり前であるかのように空いていた。
私は彼女にだけ聞こえる声で囁いた。

「I will prove it. (証明してみせましょう)」
作品名:Future Star 作家名:ちひろ