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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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妖精の布

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 妖精の困った顔を見て、あまのじゃくのリクはおもしろそうにうす笑いをうかべました。
 ところが、妖精は羽根を抜き取って、リクに差し出したのです。

「へへ。うまくいった。さて、これをいくらで売ろうかな?」
 リクは意気揚々と市場の方へ行きました。
 どすん。いきなり、だれかがリクに体当たりしてきました。
「だ、だれだ」
 地面に倒れたリクは、起きあがりながらどなりました。
「リク、いいものもってるじゃないか」
 それはカイでした。カイはいつも、子分のようにリクのあとについて悪さをしています。
 ところが、昨日までと様子が違います。
「なにをするんだ」
 カイはリクから妖精の羽をうばおうと襲いかかってきました。
 そのとき、カイの胸にきらっと光るものが見えたのです。
 リクはいそいで手をのばしました。すると、その光るものはすうっとリクの手の中に入っていったのです。
「あれ?」
 カイは急におとなしくなって、ぽかんとしています。リクは思いました。
「そうか。きっとこれが妖精の布なんだ。ちぎれてみんなの心に入り込んでいたんだ」

 次の日、リクは朝早く起きると、一軒一軒回ってみんなの胸から、妖精の端切れを抜き取っていきました。
 夕暮れになる頃、端切れはつながって、一枚の大きな布になりました。
 リクは妖精の所に布を抱えていきました。
「ありがとう。リク。これで人間の世界も元通りになるわ。でも……」
 妖精には羽根がないので、リクを連れて妖精の世界へ帰ることができません。
 リクはこの時、はじめて申し訳ない気持ちになって、羽根を妖精に返しました。
 こうして無事に妖精の長老に布を手渡すと、リクは疲れて眠り込んでしまいました。

 リクは妖精たちが大きな布に刺繍をしている夢を見ました。
 一針一針刺すほどに、色とりどりの花が咲いていきます。野原には蝶がまい、木々の梢には小鳥がいます。
 刺繍が仕上がると、たくさんの妖精たちが布をもって飛び立ち、町をおおいました。
 そこでリクは目を覚ましました。いつのまにか自分の家に帰っています。
 窓を開けると、夢の中で見たとおりの景色がひろがっているではありませんか。
 町に春が来たのです。
 町の人たちは思い出したように、春の祭りの準備におおわらわです。
作品名:妖精の布 作家名:せき あゆみ