成績をあげていけっ!
近所をふらふらと歩いてると近くの公園にたどり着く。
誰もいない夜の公園でブランコに座った。
懐かしくて、嫌でも昔のことを思い出す。
昔は二人でよくここで遊んだ。
明良は昔からいじめっ子のターゲットになりやすかった。
変に真面目だから、少しでも理屈が通らないとくってかかってしまう。
理論でいじめっ子を言い負かせてしまうものだから相手は力で反撃するしかない。
その度に俺がそいつら倒した。
そして結局は俺も明良も一緒に怒られる。
思えば、別にあの時も助けて欲しいなんて頼まれた覚えがない。
それなのに一緒に怒られて・・・明良にとっちゃ迷惑な話だよな。
でかくなったって俺は相変わらず喧嘩っぱやくて、勉強も出来なくて、学校でははみ出しものだけど、明良は真逆だ。
勉強ができて、委員会でも委員長。必ず学級委員の候補にあがるし、生徒会からもオファーがくるような優等生。
「・・・フツーに考えて俺って明良の邪魔だよな・・」
邪魔・・・・か。
けっこうキツい響きだなあ。
「どこが?」
「だって明良と一緒のときに喧嘩したらそれだけで一緒に怒られるし・・・」
「でも、それは僕のこと守ってくれるためでしょ?」
「そんなこと・・・」
って・・・。
「えっ!?」
声の聞こえたほう、となりのブランコをみると、明良の姿。
「探したよ、将司」
「なんで・・・」
「そりゃあ、あんな別れ方されたら探すでしょ」
苦笑を浮かべながら、となりでブランコをこいでいる。
「なんかあったの?」
「・・・なんでもない」
「僕のことで誰かになんか言われたの?」
素直にうなずくわけにはいかなかった。
「たぶん・・・弓田くんかな?」
「なんでっ!?」
名前を言い当てられて驚いた。
弓田は明良と話したことなんてほとんど無いはずなのに。
「弓田くん将司のこと大好きだからね」
「なんだ、それ」
「だから『あんな教科書みたいな奴と仲良くするなんて将司らしくない』なんて言ったんじゃない?」
「そんなこと言ってないっ!」
「じゃあ、なんて?」
「・・・『こんなわがままな奴と幼馴染なんて田村も大変だ』みたいなこと言ってた」
「なにそれ?」
「だって一緒にいるときはずっと俺の話ばっかりしてるし、俺は明良が俺のこと待っててくれるのが当然みたいに思ってたとこあって待たせてばっかりだし・・・帰るときだって明良が教室に迎えに来てくれて当たり前で・・こんなんじゃ明良が大変だって傍目から見ててもわかるはずだ・・・」
一気に言い終える。明良は顔を強張らせたまま何も言わない。
やっぱり、明良もそう思ってたんだ。
「明良は成績も優秀で大人受けもよくて将来が約束されてる。俺はその反対。この年になれば腕力に訴えるいじめっ子ももういない。もう何一つ俺が明良のためになれることはない。だから・・・」
遠くで犬のほえる声も、虫の鳴く声も、風で草が揺れる音も一切止んだ。
静寂が俺たちの周りを支配する。
何もない舞台に乗せられたように、俺の声はそのまま明良へ届いた。
「もう他人になろう・・・。二度と話しかけないって約束する」
立ち上がった。
明良のほうを見ないまま、公園の出口へと歩き始める。
もっと軽い靴でくれば良かったと思うほどに一歩一歩が重い。
公園を出ないうちに足が止まった。正確には、止められた。
服の裾を後ろから引っ張られている。
かなり強い力で、これ以上俺が進まないように。
・・・こんだけ力あるなら、どっちにしろもう心配ないな。
「離せよ」
振り向かないけれど、背中に向かって声をかける。
何も返答がないから、その手を無理やり振り切ってまた歩き出した。
「将司のバカっ!!」
きっと、泣き出しそうな顔をしてるに違いない声。
長い付き合いだから、顔なんて見なくても声を聞くだけでどんな表情をしてるのかくらいはわかる。
でも、ここで振り返ったら俺の一大決心が無駄になる。
「待ってよ、僕は本当にそんなこと思ってないよ。将司の話は楽しいから聞いてたいんだよ。将司はいつだって僕のこと楽しませようとしてくれてる」
・・・今でさえこんなに俺のことをフォローしてくれるなんて、相変わらず優しいな。
「それにいつも、ぎりぎりでも待ち合わせの時間に間に合うように走って来てくれるでしょ?」
それでも、待たせてることに変わりはない。そしてそれを当たり前のことのように思ってる俺がいたことは事実なんだ。
「いつだって僕のこと守ってくれて、大事にしてくれる将司がどうして邪魔になるっていうの!?」
背中を向けたまま聞いててもわかる。
そろそろ涙を落とし始めるだろう。
いつもならここで降参だけど、今日はそうはいかないんだ。
「・・・優等生と不良じゃ、世間的にもつりあわないだろ」
きっぱりと、ここで道を分けておくのが、明良のためなんだよ。
明良は優しいから、俺を切るなんてことはできない。
だから、俺からやるしかないんだ。
「将司が、そんなこというなら・・・僕だって不良になってやるからっ!ピアスして、髪の毛だって金色にして、次の中間テストは全部白紙で出すっ!委員会だってサボって将司とゲーセンに行く!」
・・・そんなこと・・・できるわけないのに・・・。
「だから・・・そんなこと、言わないで・・・」
これはもう本格的に泣き始めた。
背中越しにしゃくりあげる声が聞こえてくる。
お互いそのまま動かない時間がしばらく。
うしろから明良の泣き声だけが聞こえてくる。
こうなったらもう、チェックメイト。
「あー・・・もうっ!どうしてお前はそう捨て身なんだよ!」
この勝負、俺の負け。
昔からこいつの涙には勝てないと相場が決まってるんだ。
しゃがみこんで泣き出した明良の向かいに俺もしゃがみこんで、頭に手を置く。
「悪かったよ、ほんとに」
こうなると、何に対して謝ってるのかすらよくわからないまま謝り続けるしかない。
落ち着いてくると、またこいつはしっかりと俺の服をつかんで、まっすぐに目をみてきいてきた。
「明日も一緒に学校いってくれる?」
「行くよ」
「一緒に帰ってくれる?」
「ああ」
「今日みたいに黙ったままじゃなくてだよ?」
「俺のつまんない話でいいなら、話す」
こうなるともうすべてが明良の言いなりだ。
「他人のふりなんかしたら、許さないからね?」
もう、すべて明良さまのおっしゃるとおりにいたします・・・て気持ち。
「わかったから、ピアスして金髪になんかするなよ。あと中間テストもちゃんと受けろ。委員会もちゃんと出とけよ」
「うん」
先に立ち上がって、手を差し伸べるとそれにつかまって明良も立ち上がった。
「帰るぞ」
「うん」
こうして、昔みたいに手をつないで家までの道を歩いた。
夜の人気のない住宅街は人に見られる心配もない。
「ピアスと金髪にしてみるのも実はちょっと面白そうって思ったんだけどね」
帰りがてら、そんな話をする。
「担任も委員会のやつらも全員ひっくり返るからやめとけ」
「それも含めて面白そうだとおもわない?」
「・・・確かにな」
普段明良と一緒にいるまじめそうな奴ら驚く顔も見ものな気はする。
作品名:成績をあげていけっ! 作家名:律姫 -ritsuki-