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ボクが召し使い

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「ヴィスマ教団の封印で、入り口は塞がれていたわ。開くのには、少し時間がかかりそう」
 すると、アルクは一人の男を名指し伝えた。
「マーベルの儀式の準備は今どうなっている」
「はっ、もう準備は整っております」
「クルス大聖堂へ移動する。ミルム、先陣を頼む」
 そうして、アルクとミルムの一行はクルス大聖堂へと向った。マーベルは白い生地のローブを身に
 まとい、銀のハープを抱えていた。
 20分を要してクルス大聖堂に着いたアルクたちは、早速儀式に取り掛かった。
「マーベルさん、よろしくお願いします」
 すると、マーベルはハープを弾き始め、透き通った声で歌詞を歌い始めた。
 それは紛れも無く“暁の唄”だった。
 それとともに聖堂の暖炉から物音がして、なにやらゴソゴソしてきた。
「待てマーベル、おい、そこにいるのは誰だ」
 アルクが声をあげて遠くにある暖炉に視線を向ける。
「押すなアンドレ!」
「ガイさんももう少し進んでくださいよっ」
 聞き覚えのある声にアルクは目を丸くした。
「ん?誰だ?」
 勢い良く出てきたのは、二人の青年だった。
「はっ!出られた、出られたぞ!あの世界からやっと出られたーっ!」
 かなりの長身男が両腕を挙げて歓喜に浸っている。
「ガイさん、落ち着きましょう・・・って、アルク様!」
「アンドレ?ということはそっちはガイか!?どうしたんだ、姿全部変わってるじゃないか」
 アルクの言うとおり、その二人はガイとアンドレで、ガイは身長が伸びていて、アンドレをゆうに
 超えていた。髪も伸びて、印象は大分変わっていた。
「4年もすれば変わるもんですよ!ビジョンは大変でしたよ」
「4年?もう4年も経ったのか?」
 その後、ガイとアンドレはビジョンでの出来事全てを、アルクに話した。
「二人には、大変な想いをさせて・・・すまなかった・・」
「本当ですよ。4年間向こうの世界で暮らして、気が狂いそうになるときもありました」
 ガイの顔の傷が、その過酷さを物語っていた。
「それで、僕を止めに来たんだろう」
「当然です、今すぐテンペスト入りを断念してください。もう誰も失いたくないんです。レミーア様の
 ように、オレを置いて消えないでください」
 
「しかし、僕がテンペストに行かない限り、デスソウルやヴィスマ教団は黙ってはいないだろう。
 地獄が更に暗黒に染まってしまう。だから、そうするしかないんだ」
 ひざまずくアルクに、ガイはつぶやく。
「ヴィスマ教団を消せば、後はデスソウルをテンペストに入れ込めば終わる話です」
「ガイさん?」
 ひげが生えたアンドレが拍子抜けしたような声を出す。
「要は、全てを消し去ることに答えがあるということ」
「ガイさん、そんなことしたら、あなたはヴィスマ教団に狙われますよ」
「オレは元々命を狙われている。今更何を言おうがその事実をひっくり返すことなんて出来ないだろう。
 アルク様、あなたが止めようとしても無駄ですよ。オレとの契約は、実質期限がもう切れています。
 指示に従うつもりはさらさらありません。でも、あなたはオレにとっての、大切な、マスターです」
 ガイは扉を開いて外へ出る。それに続いてアンドレが足を動かす。
「アルク様、ガイさんは、もう昔のような子供じゃ無い。少し、大人になられたということですね」
「僕にとっては、ほんの数分でしかない。しかしガイは、数年の月日を隔てて僕の前に現れた・・・。
 あの時、もう少しガイの気持ちを考えていれば、こんなことにはならなかった」
 アンドレが深く息を吸い、言葉を漏らす。
「どちらにしても、あの人はあなたの命令に反する行動をとっていたでしょう。アルク様を守るため、
 それが最高の決断と判断したとき、ガイさんは嫌でもあなたの言うことを耳に入れる気は無いでしょう」
 少し笑みを浮かばせたアンドレは、アルクを見て。
「あの人は、召し使いとしては最低でしょうが、人としては最高の友人ですよ」
 そう言い残し、アンドレはボロボロになった執事服の上着を脱ぎ捨て、ガイのところへと走って行った。
「アルク様、アンドレの言うとおりですね」
「ミルム、リベルを連れてあの二人のとこへ行ってこい。レンバーナイト家の内事情も得られるだろう。
 それに、あの二人の力になってやってくれ」
 
「しかしガイさん、いくら強くても二人だけではあの大勢力のヴィスマ教団にかなう気がしません」
「もうそんな弱音吐いてるのかアンドレ?4年間もの間ずっとビジョンで修行してきたんだ。もっと
 自信持たなきゃ」
 すると天候に変化が現れた。雨が降り始め、近くにあった小さな小屋に入る。
 中は殺風景で、木製のテーブルとイスがあるだけのシンプルなただの小屋だった。
「雨があがるまで、しばらくここで待ちましょう」
 ドアを叩く音がした。
「誰ですか?」
「オレだ、リベルだ」
「ミルムよ」
 ガイはドアを開けて、二人を中へ入れた。
「どうしてここに?」
 唖然とするガイとアンドレを横目に、リベルが衣服を絞り始める。
 そこから滴り落ちる水滴が、すっかり乾燥してしまった床を黒く染め上げた。
「アルク様からの命令だよ。これから、僕たちがガイさんの身を守ります」
 唐突な事実だ。リベルとミルムが、オレたちと同行するということなのか。
「これからはガイさん、それにアンドレさんが旅に出ることによって、お二人に危険が伴います。
 だからせめて、軍隊である私たちがいたほうがましでしょう」
「ありがとう、オレはこれからレンバーナイト家の真実を知る旅に出る。そしてなにより、この地獄に
 平和の色を取り戻してみせる。絶対に、このパシグィルフとレンバーナイトの戦いを終わらせる。
 見てろヴィスマ教団、お前らが奪ったオレの記憶の仇、それと、死んで逝った仲間たちの仇、必ず
 取ってみせる。
 
 



















                    ボクが召し使い
                            終わり
作品名:ボクが召し使い 作家名:みらい.N