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ボクが召し使い

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ボクが召し使い
         












             プロローグ


  異文化ブームの到来と共に、ボクは少々呆れ紛れに秋葉原の通りでチラシ配りの仕事をしていた。
「宜しくお願いしまーす・・・はぁ、いつになったらちゃんとした仕事につけるのかね」
 日本という国はなぜこんなにも狭いのか、同じ仕事の仲間の一人がチラシをおろし、溜息をつく。
「お前のいた所には、こんな文化ないんだろ?はっきり言って疲れるんだよな、こんな格好
 で働くってのも」
 彼の言うとおり、ボクはこの地球上の主な知的生物『人類』ではない。
「地獄ではどんなことが主な仕事内容なんだ?ガイ」
 そう、ボクは地獄から来た死神の召し使い。ガイとは本名の一部で過ぎない。
 ここにいる仕事仲間の全員は、散々このアキバとかいう場所で働いているせいか、ボクのこの存在自体には、あまり関心が無く、半分気休めに冗談話に付き合う程度だ。ボクがどこからきたか、それすら冗談にされて、適当に当てはめられたのが『伊豆』らしい。いきなり地獄から来たとは言っても、信じる
 人間のほうが珍しい。
「地獄での仕事は、主に野獣狩りや骨拾いが仕事です」
「へぇ~骨拾いねぇ」
 彼たちはボクがただのオカルトマニアにしか思ってなく、返答は両耳から流してしまう。
「本当なんだけどなぁ・・」
「死神の召し使いなんだろ?じゃあこのダンボールの中のチラシ、消してみろよ」
「召し使いであっても、決して魔法使いじゃないんです」
 向こうはガッカリした笑顔つきの表情で、あたかもバカにしているとしか思えない。
 実際のところ、物体を消すことは可能。
「ちょっといいですか?」
 また一人の男が無防備にも近づいてきた。
「まぁたお前か?人気者だなぁ」
 地上の人間の男は変わり者ばかりなのだろうか。
「お久しぶりです、地上での生活はどうですか?」
 そんなはずは無い、私は地獄から来たのだぞ、人違いならぬ死神違いだ。
 知らない。
「なっ、そりゃないですよ、ガイさん」
 何故ボクの名を知っている?
「私はデステンプルの主人、レミーア様に仕える執事のアンドレです。覚えてませんか?」

 覚えているとも、レミーア様はボクの元主人、忘れるはずがない。
「何しに来たんですか」
「私、先ほどこの地上に来たのですが、なんせレミーア様直々の命令でありまして・・・」
「でもどうして・・・」
「地上に、デスソウルが逃げ出しました。今すぐ討伐せよとのことです」
 デスソウル、それは地獄で死んでいった悪魔の魂が亜種かした物。地下の井戸に封印していたはずだが、
 どういうわけか、逃げてしまった。たしかに、デスソウルを地上で野放しにしてはいられない。
 人間の魂を吸い取ってしまうからだ。
「魂を抜かれたら、人はただの抜け殻にすぎない。私も討伐に参戦します。ですからガイさんも
 どうか頼まれていただけませんか?」
「ボクは・・・主を捨てた召し使い、今更命令に従うわけにはいけないよ・・」
 すると、遠くから人の悲鳴が聞こえてきた。
「なっ、何?お前、何の話をしてるんだよ?」
「すいません、少しここ離れます」
「あっ、おい!」
 アンドレは背中に悪魔の羽を生やし、目にも止まらぬスピードで悲鳴の聞こえた方へ飛んでいく。
 勿論、人間にはその姿は見えない。
「誰か・・・助けて!」
「動かないでーっ!」
 ボクは両手に刀を握り、デスソウルに向かって振り下ろした。
 あと数ミリの距離で、ボクの刃の先は倒れこむ少女の目の前で止まった。
「君は・・・見てしまった。ボクの刃。そしてデスソウルの恐怖を」
「あなたは誰?」
「ボクはガイ、ボクの刃を見た地上の人間は、ボクの主となる定。君、名前は?」
「稲沢萌・・・」
「では・・・これからあなたの召し使いとしてこのガイとの地獄の契約をお願いします」
 萌は慌てている。しかしこれは地獄での掟。1年間その主の命令を忠実に従うこと。
 









            第一章 契約


  「ガイ・・・君?その・・どういうこと?助けてくれてありがとう、でもいまいち理解で
 きなくて・・」
「ボクの刃を見てしまった人間は、その刃を持つ死神の主にならなければいけない掟なのです」
 アンドレの横目が私に突き刺さる。何か間違えている?
「つまりは、このガイ君の主になったということです、おめでとうございます」
 アンドレは腕を組み、綺麗で長い執事服を風邪になびかせながら言う。
 ボクはデスソウル、召し使い、そして地獄について全て萌に話した。
「じゃあ、ガイ君は、これから一年間私を主とする、そういうこと?」
「はい」
「本当に?」
「はい」
「絶対に主にならなきゃ駄目?」
「駄目です」
 全ては掟。仕方ないことです。
「友達としては・・・駄目かな」
「友達・・・?」
 地獄にはそんなものは無い。誰も信用できない悪夢の世界では、そんな軽はずみな言葉は、皆に
 笑われる。
「私、友達いなくて・・・誰かに助けれるなんて、初めてだったの、だからガイ君・・」
「ボクのあるべき姿は召し使いとして主の命令に従う、ただそれだけの人材です」
 それを聞いた萌は、少ししゅんとする。
「しかし、あなたが命令するのであれば、友達になっても・・いいですよ」
「本当に?」
 喜ぶ萌の顔を見て、なぜか自然と笑みがこぼれた。
「笑う・・って、こういうこと・・・なのかな」
 
 夜、萌の就寝を見計らい、家の屋根の上によじ登った。
「月が恋しいですか?ガイさん」
 そこにはアンドレの姿があった。
「それはアンドレさんも同じですよ」
死神は、夜月を見ないと消えてしまう。だからボクは、よじ登るまでして月を拝めているのだ。
「本当に、あんな嘘をついてまで、彼女の主になる必要があったのでしょうか」
「似てるので・・マスターの顔と、レミーア様。なんだか、放っておけない気がしたんです」
「・・・死神らしくないですね、そんなガイさん、嫌いじゃないですよ」
「気味が悪いことは言わないでくださいよ」
 月の下、屋根の上で、ボクはメランコリーな一夜を過ごした。
 
「おはようございますマスター。朝の紅茶はどうですか?」
「いいっ?ガイさん、そこまでしなくてもいいよ」
 誰あろう主の言葉に、反論するのは、よほどのことでなければ出来ない。
「わかりました。そこまでしません」
「ははっ、可笑しいっ」
 そこは二階建てのアパートで、萌様はここの二階に一人で住んでいた。
「今日は大学の通学日ですか?お気をつけて」
 ボクは手を振り、主人を見送る。
「アンドレさん、出てくるなら早めに」
「わかっていたなら、呼んでください」
 ベランダの裏からアンドレの顔がのぞかせた。
「アンドレさんは早く主の元へ帰らなくていいんですか?」
「私も実は、レミーア様の最後の命令を受けて、地上に来たんです。だから私は誰の執事でもないんですよ。辞めて3ヶ月もすると、腕が鈍るものですね」
 じゃあ新しい主人を見つければ良い。あまり死神同士かかわりを持たないほうが身のためだ。
「新しい主人、ですか。当分そんな気分にはなれませんね」
作品名:ボクが召し使い 作家名:みらい.N