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吉祥あれかし 第一章

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「…陛下、海の物とも山の物とも附かぬあのような者によろしかったのですか?あのコマは、第一王妃陛下の婚礼のための陛下御自ら物された贈物だったと記憶しておりますが…」

 国王は自分の礼装を鏡越しに見ながら侍従に応対した。

「構わぬ。第一、本当に海の物とも山の物とも附かぬ者であればこのように我が国伝来の宝刀そっくりの物を持ってくる筈がない。コマにしても、妃には事の次第を話せば必ず判ってくれる筈だ」

 その頃、ミキはホテルの正面玄関を抜け、一度だけ、守衛門の外から国王の逗留するホテルの一室の方角を振り向いた。その手には金に輝くコマが大切に握りしめられていた。そして、日本語で呟いた。

『吉祥あれかし…』

 数日後、立派にドゥク国の礼装を整えた国王と侍従達は大喪の礼に参列した。その威風堂々たる姿は、他の並み居る国々の国王や使節も感嘆したほどであったという。
作品名:吉祥あれかし 第一章 作家名:山倉嵯峨